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6.最近の豪雨災害の特徴と「避難」の考え方

静岡大学防災総合センター 准教授 牛 山 素 行

1.「豪雨災害は激増」していない

 「近年記録的な豪雨が激増し、豪雨災害が激増している」といった話をよく聞く。もはやそのことは 「常識」となっているかのように感じることすらある。しかし、それは「常識」なのだろうか。図1は 、筆者の集計による気象庁AMeDAS観測所(全国約1,300箇所)において1時間降水量80舒幣紊龍砲瓩瞳 しい雨を記録した回数の経年変化である。災害データとの比較の関係で、集計期間は1979〜2008年まで の30年間としている。一見してわかるように、1990年代後半以降、記録回数の多い年が続いている。10 年刻みで平均すると、1979〜1988年: 16.2回、1989〜1998年:14.7回、1999〜2008年: 23.4回となり、 1979〜1988年を1とすると、比率は1.00: 0.91: 1.44で、確かに最後の10年間が多くなっている。「豪 雨」という現象は、1時間降水量のような短時間降水量の激しさだけでは表現できない。図2は、同様に 日降水量200舒幣紊竜録回数である。日降水量200个蓮地域によってかなり「激しさ」という意味が 異なるが、ややまとまった降雨事例の回数とみなしてよい。こちらは1990年代後半以降記録回数が多い 傾向は同様だが、1時間降水量ほど明瞭ではないようにも見える。10年ごとの平均は、165.5回、206.9 回、227.9回、比率は1.00:1.25:1.38で、やはり1時間降水量の場合ほどの差はない。

図1 気象庁AMeDAS観測所における1時間降水量80舒幣紊竜録 回数

図2 気象庁AMeDAS観測所における日降水量200舒幣紊竜録回 数

 様々なデータの経年変動を見る場合、統計的検定という作業を行う場合がある。もっともオーソドッ クスな線形回帰係数の有意性検定を行うと、1979〜2008年の30年間の1時間降水量80舒幣紊硫鷽堯日 降水量200舒幣紊硫鷽瑤蓮△い困譴睛意水準5%で増減傾向は有意とならなかった。つまり、統計的に は増加しているとも、減少しているとも明瞭には言えない。気候統計値のトレンド検定によく用いられ るケンドールの順位相関係数の有意性検定でも、やはり有意性は認められなかった。10年ごとの平均値 をもちいて、平均値の差の検定(t検定)を行うと、1時間降水量80舒幣紊硫鷽瑤1989〜1998年と1999 〜2008年の間でのみ有意性が認められた。
 ちなみに2009年は1時間降水量80舒幣紊17回、日降水量200舒幣紊92回、2010年は12月25日現在で 同20回、110回である。1時間降水量80舒幣紊硫鷽瑤呂笋簑燭し晃が続いているが、日降水量200舒 上の回数は2008年(81回、1980年以降2番目に少ない)、2009年(同4番目)、2010年(同7番目)と、3 年続けて少なく、まとまった雨の発生が少ない状態が続いている。2008年は愛知県岡崎市などで豪雨災 害があり、「ゲリラ豪雨」という言葉がよく聞かれた年であり、2009年は兵庫県佐用町での豪雨災害、 2010年は奄美での豪雨災害などがあり、「まとまった雨の発生が少ない」という表現はにわかには信じ がたいかもしれないが、これがデータに基づく事実である。最近3年間は、豪雨事例は見られたが、い ずれもその範囲が限定的だったのである。
 統計値の解析手法には様々なものがあり、ここで例示したのはごく素朴な方法のみである。筆者は、 最近10年ほどの間に豪雨が比較的多く記録されていること自体を否定するつもりはない。ただ、話はそ れほど単純ではないことには注意が必要だろう。
 豪雨は、豪雨災害の原因(誘因)である。では、豪雨災害の「結果」ともいうべき被害はどのような 傾向だろうか。図3は、気象庁の資料を元として大雨による被害を、図1、2と同期間について年別に集 計した結果である。ここで「全壊等」とは、住家の全壊・流失・全焼の合計である。図からは死者不明 者数、全壊等棟数、床上浸水棟数のいずれも、経年的に減少しているように見える。線形回帰係数の有 意性検定では、死者不明者数、床上浸水棟数は有意水準5%で有意な減少傾向が見られた。また、ケン ドールの順位相関係数の有意性検定でも、死者不明者数、床上浸水棟数が有意水準5%で有意な減少傾 向が見られた。災害による被害は様々な側面があるが、少なくとも人的被害、物的被害に関しては、明 瞭な減少傾向が認められると言うべきだろう。詳細は省略するが、2009、2010年もこれらの被害は多く ない傾向が続いている。

図3 大雨を原因とする被害高の経年変化(1980〜2009)

2.「もう豪雨災害は怖くない」などということはない

 豪雨、特に短時間降水量の大きな記録がここ十年程度の間多めに記録されているが、豪雨による物的 、人的被害は減少傾向にあることを前節で述べた。では、わが国において豪雨災害はもう脅威のないも のと考えていいのだろうか。けしてそんなことはない。図3に見るように、1980年以降の30年間で死者 ・行方不明者が最大だったのは1982年(505人)だが、2番目に多いのは(3番目の1993年・196人と僅差 だが)、2004年(201人)である。2004年は全壊等も1980年以降1位(1,292棟)、床上浸水は同2位 (37,583棟、1位は1982年の82,860棟)と、いずれも大きな値が記録されている。2004年は、台風の上 陸数が統計開始(1951年)以来最大の10個に上り、梅雨前線等の影響による豪雨もあり、文字通り豪雨 災害が多発した年である。
 2004年の豪雨災害の中でも、最大の被害をもたらしたのが10月20日に日本に上陸した台風23号である 。この台風により、全国で98名の死者・行方不明者がもたらされた。これは、1980年代以降の1事例あ たりの犠牲者数としては、昭和57年7月豪雨(長崎豪雨等)の345名、昭和58年7月豪雨(山陰豪雨)の 117名に次ぎ3番目に大きな記録である。図4は、筆者の調査によって作成したこの台風による死者・行 方不明者の発生場所分布図である。関西・四国地方の広い範囲で被害が発生したことがわかる。これら 発生箇所の中で、1箇所あたりでもっとも死者・行方不明者数が多かったのは岡山県玉野市宇野7丁目の 土砂災害現場の5名だった。他は、室戸市室戸崎町の高波災害現場の死者が3名の他は、1箇所あたりの 死者2名の現場が12箇所、同1名が64箇所であった。近年の豪雨災害でも、たとえば2003年7月の熊本県 水俣市での土石流災害(同市集地区だけで犠牲者15名)、2009年8月の兵庫県佐用町での洪水災害(同 町幕山地区だけで犠牲者9名)など、ほぼ同一の箇所で10名前後の犠牲者が集中的に生じる事例は少な くない。2004年台風23号の場合も、どこかでこういった集中的な人的被害が発生した可能性は十分あり 、その場合犠牲者の合計が昭和58年7月豪雨の規模を上回ったとしてもおかしくない。
 すなわち、近年であっても、様々な条件次第では、規模の大きな豪雨災害が発生する可能性があるこ とが示唆される。

図4 台風0423号による死者・行方不明者の発生場所

3.豪雨災害による犠牲者はどのように発生しているのか

 近年の豪雨災害事例でも、少なからぬ犠牲者を発生する場合があることを指摘した。これらの犠牲者 がどのような状況下で発生しているのか、という問題も実はあまり明らかにはされていない。図5は、 2004年から2009年の間に豪雨災害で生じた犠牲者368名を、筆者が発生原因別に分類した結果である。 土砂災害による犠牲者が最も多く、これは防災白書等でも指摘されているところである。「洪水」は河 道外での水による遭難者、「河川」は河道内での遭難者である。「河川」は、ほとんどが田んぼの見回 りに行って用水路に転落したり、川の様子を見に行って誤って川に転落したりするなどの、いわば「危 険な状況が生じていることは承知していながら危険に接近したことによる犠牲者」である。このような 、単に災害情報を提供しただけでは軽減できそうにない犠牲者が全体の1/4近く存在している。
 犠牲者が遭難した場所に着目して分類した結果が図6である。ここで、「屋内」はほとんどが自宅の 建物内であり、「屋外」は、自動車あるいは徒歩などで外を移動中に遭難したケースである。特に洪水 による犠牲者は、その多くが屋外を移動中に遭難している。自宅に取り残されたところ流されて遭難す るといったケースは、最近ではほとんど見られない。しかし、移動中は車か徒歩かにかかわらず、洪水 流に対しては脆弱な状態に我々は置かれている。おおむね50冂度の浸水があり、かつ流速1m/s程度( 普段の川の流れ程度)の流れがあれば、ほとんどの人は徒歩による移動が難しくなる。また、車であれ ば、50冂度の浸水があれば浮きはじめてしまうので、そこに流れがあれば当然制御不能となる。浸水 深がそれほど深くなくても、「流れのある水」は非常に怖いということを我々は理解する必要がある。
 屋外での犠牲者が多いことは、「豪雨の最中に屋外を移動する」ことにつながる「避難行動」が危険 を伴っていることも予感させる。図は示さないが、避難行動の有無について集計すると、全体の11.4% (42名)が何らかの避難行動をとっていたという結果となった。また、避難先に向かう最中に遭難した 者は7.9%(29名)であった。

図5 2004〜2009年の豪雨災害犠牲者の原因別分類

図6 原因別犠牲者の遭難場所。値は人数。「強風」、「高波 」は「その他」に含む。

4.「住民の災害対応=避難」なのか

 災害が発生した(あるいは危険が迫った)際に、地域住民が取るべき行動としてまず連想されるのが 「避難」になってはいないだろうか。無論、「避難」が必要、有効な場面があることは間違いないが、 常に避難をすることが最善ではなく、外力の種類、状況によってかなり話は異なることに注意を向けな ければならない。
 図7はこれらの関係を筆者なりに整理した図である。避難が最善かどうかは、最も基本的には余裕時 間(リードタイム)及び切迫性(あるいは危険性)の程度によって決まる。リードタイムが長く、切迫 性が低い場合は、避難することが最善となる。この場合は、学校などの指定された避難場所に避難する ことで差し支えがない。このタイプの避難は、ほぼすべての外力に該当する。一方、リードタイムが短 く、切迫性が高い場合には、移動距離の長い避難をすることがむしろ危険になる場合もある。このよう な場合は、万全とは言えないが、身近な場所で、少しでも安全と思われる場所に移動するという次善の 策を取らざるを得ない。外力別に考えると、洪水災害、土砂災害、津波災害の場合にこのような状況が 生じうる。洪水災害の場合はさらに「次善の策」が段階的に存在し、最悪の場合「自宅の2階や屋根の 上に待避」という行動も「避難行動」として意味を持ちうる。

図7 避難の形態と外力の種類・状況

 地震災害において、体育館等での避難生活の姿が、メディアではよく取り上げられるが、地震の際に 避難する理由は、基本的には「自宅での居住が困難になったから」であり、避難することによって人的 被害を軽減するという効果は、地震火災が大規模に発生して激しく延焼するような場合を除いて、ほと んど存在しない。また地震の場合は、基本的に外力が作用した後の避難となるので、避難先や避難方法 、避難のタイミングなどの選択は、他の外力に比べれば容易であり、避難することによって被害がかえ って拡大するといったこともあまり考えられない。
 地域での防災対応というと、得てして「(地震だけを想定した)避難訓練」が連想されがちだが、そ の「避難訓練」でいったいどのような被害の軽減が図ろうというのであろうか。メディア等によって形 成される「災害イメージ」にとらわれず、災害の実際の姿を冷静に把握した上で、目的と効果をはっき りと見据えた防災活動をすべきではないだろうか。


NO.103 (2011.冬号)
巻頭随想 風水害被害の経年変化
1.平成21年の風水害の概要と課題
2.深層崩壊に関する全国マップの公表について
3.市町村を対象地域とする警報・注意報について
4.佐用町台風9号災害検証について
5.洪水災害から命を守る
6.最近の豪雨災害の特徴と「避難」の考え方
7.平成21年7月21日豪雨災害から学ぶ
連載講座 連載第10回 戦国の一部事務組合・毛利元就
地域防災実戦ノウハウ(66)
連載講座 連載第2回 新たな地域防災対策への道(2)</br>〜経済の高度成長期に整備された社会資本に係る防災安全神話の崩壊〜
コラム 治水治国
火災原因調査シリーズ(59)・スプリンクラー火災
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