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巻頭随想 大規模災害に図上演習は効果が期待できるか

(株)防災&情報研究所 代表 癲〕 成 子

東北地方太平洋沖地震・津波

 3月11日午後2時46分に発生し、未曾有の被害をもたらした東北地方太平洋沖地震の津波被災地に、4月上旬、岩手県側から向かった。旧田老町に残った高さ10mの防潮堤の上に立つと、眼下に確かに存在していたはずの家並みが、見渡す限り瓦礫と化していた。大津波はやすやすと防波堤を越え、ここでは、水門を閉めるため海に向かった消防団員が亡くなられた。これまで何十年もかけて築いてきたはずのハード対策、そして、危険を顧みずに避難の呼びかけや避難誘導に向かい、落命された方々のことを思うと、悔しさとむなしさで涙がこみ上げた。
 建物の跡形もなく、延々と続く瓦礫の山は、まるで絨毯爆撃を受けたかのようだった。気仙沼や大槌町などは、大津波に追い討ちをかけた大火の傷痕が痛ましかった。岩手県陸前高田市、大槌町、宮城県南三陸町、女川町では、災害対策本部となる役所の庁舎が津波にのまれ、大槌町では町長も津波で死亡、南三陸町や陸前高田市では、多数の職員が津波で死亡、行方不明となっている。
 「想定外」の巨大地震、大津波、福島原子力発電所災害といった大規模広域複合災害にどう対処すれば良いのか。また、図上演習は、このような大規模災害に果たして役立つのだろうか。
 阪神・淡路大震災後に普及し始めた図上演習だが、近年発生した災害被災地の中に、過去に図上演習を実施していた地方自治体が出現しており、その検証が問われている。

図上演習実施の効用

 今回の被災地K市でも3年ほど前に、消防科学総合センターが主催する市町村出前研修で、地震・津波を想定した図上シミュレーション訓練を実施し、講師を務めていた。しかし、市街地の被害が大きく想定を超え、組織的運用に十分反映できなかったのではないかと推察される。
 市町村向けの図上シミュレーション訓練では、関係部局や消防本部それぞれの業務遂行や連携のあり方が主な目的となるため、災害対策本部の壊滅的な被害や職員の多数死傷などは設定しにくい。なぜなら、「壊滅的被害」の状況を付与しただけで、訓練参加者は茫然自失状態に陥って組織は崩壊、短時間で行うべき訓練が進行しなくなるからである。また、図上演習の実施者もいわゆる「正常化の偏見」が作用するためか、壊滅的被害の設定を望まないことが多かったが、今後は「想定外」の激甚な事態についての図上演習が受け入れられることは間違いないだろう。
 一方、昨年(平成22年)発生した風水害において、事前に実施していた図上シミュレーション訓練が見事に奏功した事例が見られた。
 平成22年台風第9号で被災した静岡県小山町では、元自衛隊の教官をしていた防災監の指揮の下、浸水危険のある地域に警察官、消防団員を事前配置した後、避難指示を発令して高齢者等を避難誘導し、死傷者の発生を防ぐことができた。関係機関との実働訓練に加え、2年続けて行った地震を想定した災害対策本部図上シミュレーション訓練を通じて職員を育成した成果が現れたと言う。
 奄美地方の豪雨災害時には、住民や社会福祉施設が行っていた実働型訓練が役立った。土石流に襲われた特別養護老人ホームでは、浸入してきた土石流を出火源と見立て、防火扉や机等でバリケードを築いて入所者を守った。地域住民がグループホームから避難する途上で水没した車から、入居者を助け出した例もあった。「結いの精神」が息づいている地域であるとは言え、グループホームが行っている避難訓練等に一緒に自治会も参加するなどの協働訓練をしていなければ、活躍を引き出せなかったのではないかと言う。
 残念なことに、被災時に図上演習研修が活かされていない事例も見受けられるが、その原因は、研修を受けた職員全員が異動していたことにあった。小山町のように、継続して職員向け図上演習を実施し、合わせてリーダーの意思決定力を高めることが望まれる。

津波避難訓練の効果と限界

 今回の大津波では、絶望的な被害の一方で、過去の言い伝えを堅実に守り、高所避難をして助かった例や、三陸沿岸で近年に行われて来た防災教育や津波避難訓練の効果が報告されている。
 津波で全壊と判定されたK市の保育園では、地震の揺れと同時に津波を想起し、すぐに年2回行っている津波避難訓練どおりに、お昼寝中だった園児78名を21名の職員が徒歩と散歩用の台車で300mほど先の神社の高台まで避難させたという。さらに最大波が来る25分間ほどの間に、毛布や衣類なども運び出した。「津波が来た!」という声とともに、残っていた職員も神社の高台に逃げ込み、全員が助かったという。
 ただ、迎えに来た母親と祖母、園児が車ごと津波で流され亡くなった。せっかく助かっていたはずの命が奪われてしまったのである。
 また、津波避難訓練どおりに指定されていた避難先に避難したものの、想定を超えた津波にのまれた例があった一方で、ハザードマップで最大遡上高と避難路を確認し、高台までの避難訓練を実施していた地区の住民は助かった例もあった。

応用範囲の広い図上演習の柔軟な活用を

 今回の東北地方太平洋沖地震が、想定を上回る被害だったからと言って、何をしても無駄と絶望的になることはない。広域・大規模災害であっても、個々のミクロレベルの備えの積み重ねがあれば、全体の被害を極小化することができるのである。
 図上演習には、目的に応じて軽度から上級までの様々な種類の実施方法があるので、その応用を図ることが肝要である。消火訓練や地震想定の訓練が風水害対応に役立った事例もあり、とにかく、何らかの災害を想定し、協働して訓練をしておくことである。
 さらに実効性を高めるには、関係組織・機関の対応手順や意思決定、連携を図る図上シミュレーション訓練とは別途、最悪の事態をもたらす災害について、討議型の図上演習を積み重ねておく必要があるのではないか。
 住民向けには、ハザードマップを使った図上演習と避難訓練を組み合わせることである。また、地域や父兄も一緒に、揺れの直後の避難だけでなく、津波警報が出されている間は津波危険地域には戻らないなどの対処方法の啓発や図上演習を繰り返し行うことである。
 今後発生が予測されている巨大地震や首都直下地震、さらには頻発する風水害等に備え、実働訓練と合わせ、図上演習を災害発生危険が高い地域に住まうための作法として取り入れる必要があるのではないだろうか。もちろん、職員の異動等も考慮し、繰り返し実施しなければならない。継続してこそ力がつくのである。



NO.104 (2011.春号)
巻頭随想 大規模災害に図上演習は効果が期待できるか
1.東日本大震災からの復興に向けて-地域防災計画の見直しを始めの一歩として-
2.東日本大震災・人的被害の面から
3.いのちを救うこれからの津波観測システムの採用
4.絶対に守らなければならないもの
5.津波対策は失敗だったのか
6.東日本大震災に対してどのように取り組むか
7.提   言
8.東日本大震災に学びこれからを考える
9.震災からの復興は総合的に・・防災は隠し味
10.3つの疑問と今後の防災対策
1.市町村の風水害対応と図上演習の活用方法
2.集中豪雨を対象とした状況予測型図上訓練
3.風水害図上型防災訓練における防災気象情報及び気象台との連携について
4.風水害と避難所運営ゲーム『避難所HUG(ハグ)』の実施と普及について
5.市町村における風水害図上シミュレーション訓練のケーススタディ
災害レポート 2010年インドネシア・メラピ火山噴火に学ぶ
災害レポート 平成22年奄美豪雨災害における自治体等の対応について
連載講座 連載第11回 水路工事で人の道を説く・川崎平右衛門
地域防災実戦ノウハウ(67)
連載講座 第3回 新たな地域防災対策への道(3) 〜平成の市町村合併により課せられた行政への新たな防災対策への課題〜
火災原因調査シリーズ(60)・電気火災
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