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一般財団法人消防防災科学センター
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2.平成23年の豪雨災害について

静岡大学防災総合センター
准教授 牛 山 素 行

1.はじめに

 平成23年(2011年)の自然災害は、3月11日から発生した東日本大震災があまりにも大きな被害(2012年6月13日 現在警察庁資料によると死者・行方不明者18,800人、全壊130,429棟、半壊262,818棟、床上浸水20,554棟など)を もたらしたことから、他の災害の印象が覆い尽くされてしまった感がある。しかしながら、同年の豪雨に起因する 被害は、平成24年版消防白書によれば、死者121人、全壊437棟、床上浸水8,645棟などとなっており(表1)、けっ して少ない数ではなかった。日本の豪雨災害による被害は、戦後一貫して明瞭に減少傾向を示している(図1)。平 成23年の豪雨による被害は1970年代の値と比較すると大きなものではないが、最近約10年間のなかでは、台風が10 個上陸するなど、水災害が多発した2004年に次ぐ規模となっている。本稿では特に、新潟・福島豪雨と、台風12号 (紀伊半島豪雨災害)について、注目される事象などを挙げてみたい。

図1 気象庁資料(2010、2011年は消防庁資料)による豪雨災害による被害 の経年変化

2.平成23年7月新潟・福島豪雨

 2011年7月27日から30日にかけ、停滞前線の活動により、新潟県中越地方、福島県会津地方を中心に豪雨が発生し た。気象庁はこの豪雨を、「平成23年7月新潟・福島豪雨」と命名した。気象庁が気象現象に命名をしたのは、2009 年の平成21年7月中国・九州北部豪雨以来2年ぶりのことである。今回の豪雨域では、7年前にも豪雨が発生しており 、気象庁が「平成16年7月新潟・福島豪雨」と命名している。以下、本報では前者を「2011年豪雨」、後者を「2004 年豪雨」と呼称する。
 降水量の多かった気象庁AMeDAS宮寄上(新潟県加茂市)の降水量の推移を図2に示す。降雨は7月28日頃から始ま っていたが、ピークは7月29日昼過ぎから30日朝にかけてであった。気象庁AMeDAS観測所データ(一部新潟県所管デ ータを追加)から内挿して作成した新潟県、福島県周辺の72時間降水量分布図を図3左に示す。2004年豪雨について 同様に作図したのが図3右である。2004年豪雨、2011年豪雨ともに新潟県中越地方を中心に雨域が広がっているが、 その範囲は2011年豪雨の方が広く、かつ量的にも多くなっている。

図2 気象庁AMeDAS宮寄上(新潟県加茂市)の降水量

図3 2011年豪雨(左)と2004年豪雨の72時間降水量分布図

 全国のAMeDAS観測所のうち、統計期間20年以上の観測所を対象として集計したところ、7月27日から30日の間に1 時間降水量の1979年以降最大値を更新した観測所は9ヶ所、24時間降水量7ヶ所、48時間降水量19ヶ所、72時間降水 量24ヶ所だった。2011年豪雨は長時間降水量が特に多かった事例と見なされる。2004年豪雨時の1979年以降最大値 更新観測所数は、1時間降水量3箇所、24時間10箇所、48時間8箇所などとなっている。2004年豪雨もかなりの規模で あったために直接比較はしにくいが、2004年豪雨よりさらに広い範囲で既往最大値を更新する規模の豪雨が見られ たとは言っていいだろう。
 なお、2011年豪雨の期間中に、新潟地方気象台は記録的短時間大雨情報を30回発表した。記録的短時間大雨情報 は、各府県において数年に一度程度しか発生しないような1時間降水量が記録、または解析された場合に発表される 情報である。一連の降雨で30回発表されたのは、この情報が発表されるようになって以降で最大となった。
 この災害による全国の被害は表1の通りである。被害の多くは新潟県で発生しており、総務省消防庁の2011年12月 16日現在の資料によれば、このうち新潟県での被害が、死者4人、行方不明者1人、全壊40棟、半壊799棟、床上浸水 1,133棟となっている。総務省消防庁の2004年9月10日現在の資料によれば、2004年豪雨時の新潟県の被害は死者15 人、住家の全壊70棟、半壊5,354棟、床上浸水2,149棟などとなっている。両者を比較したのが図4である(横軸が対 数であることに注意)。2004年豪雨に比べ、2011年豪雨は人的被害、家屋被害ともにかなり少なくなっている。
 死者・行方不明者の遭難状況を、報道記事を元に筆者がこれまでに行った豪雨災害の遭難者に関する研究(たと えば牛山・高柳、2010)と同様な方法で分類した。遭難者を原因別に分類すると、「洪水」5名、「河川」1名とな り、「土砂」、「強風」、「その他」は確認できなかった。「洪水」が遭難者のほとんどを占めるのは近年の豪雨 災害ではほとんど見られず、2011年豪雨の特徴と言える。
 2011年豪雨は、よく似た地域で発生した2004年豪雨に比べ、短時間降水量、長時間降水量、豪雨域の広がりなど 、様々な観点から見ても規模の激しい豪雨であったと見なされる。しかし、2011年豪雨の被害は2004年豪雨に比べ 、人的被害、家屋被害とも少ない傾向が見られる。特に人的被害が少なかったことについて、2004年豪雨を教訓と した避難対応が効果をもたらしたといった見方もできるが、家屋被害も少なかったことから、単に避難行動などの ソフト対策が効果を発揮したというより、堤防整備等により市街地への洪水流の侵入が軽減されるなど、ハード対 策との相乗効果である可能性も高い。

図4 2004年豪雨・2012年豪雨による新潟県内被害の比較

3.平成23年台風12号(紀伊半島豪雨災害)

 2011年9月1〜4日にかけ、台風2011年12号が日本付近を通過し、紀伊半島を中心に豪雨をもたらした。消防庁資料 によると、10月5日現在全国で、死者・行方不明者92名、全壊179棟、半壊595棟、床上浸水8,626棟などの被害を生 じる災害がもたらされた。
 台風が日本付近で極めて遅い動きをしたため、紀伊半島を中心に豪雨が長時間継続した。一連の降雨により、全 国の気象庁AMeDAS観測所で1976年以降最大値を更新した観測所(統計期間10年以上)は、1時間降水量が11箇所、24 時間降水量50箇所、72時間降水量50箇所となった。1時間降水量は、9月4日に和歌山県新宮で記録された132.5个 最大だが、更新箇所数も比較的少なく、値も極端に大きなものは記録されなかった。24時間降水量は広域で最大値 が更新された。鳥取県大山では783个箸覆1979年以降最大値387个稜椣幣紊箸覆辰拭このほか、徳島県福原旭768 弌同木頭721个覆匹記録され、これらはAMeDAS全地点・全記録の10位以内に相当する。72時間降水量も広域で更 新となり、奈良県上北山では9月4日に1,650个肪し、AMeDAS全地点・全記録の最大値1,322个鯊腓く上回り、こ れに近い値が奈良県風屋、三重県宮川でも記録された。72時間降水量については、AMeDAS全地点・全記録の上位10 位記録中5つまでが本事例のものとなった。つまり、1時間降水量については極端に大きくはなかったが、長時間降 水量、特に72時間降水量が広範囲で極めて大きな値が記録された事が特徴と言える。

図5 気象庁AMeDAS上北山(奈良県上北山村)の降水量推移

図6 2011年9月4日12時の72時間降水量分布

 10月5日現在の消防庁資料では、死者・行方不明者92名となっており、最も多いのが和歌山県の53名、次いで奈良 県の25名で、他に三重(3名)、徳島(3名)、香川(3名)などとなっている。全国の死者行方不明者92名は、1980 年代以降では、昭和57年7月豪雨(345名)、昭和58年7月豪雨(117名)、2004年台風23号(98名)に次いで4番目の 規模となる。和歌山県の死者行方不明者53名は、1県の人的被害としては1983年7月の島根県の107名以来最大で、1 県・1事例で50名以上となるのは1980年代2事例、1970年代6事例(うち1事例は犠牲者のほとんどが船舶遭難者)に 過ぎず、近年の豪雨災害としては極度に大きな被害と言える。

図7 市町村別死者・行方不明者数

図8 原因別犠牲者数

 消防庁資料、和歌山県資料、報道記事を参考に、原因別遭難者数を整理すると図8となる。ほぼ半数が「土砂」で 、土砂災害による犠牲者が多いことが特徴である。十津川村野尻では村営住宅2棟が流され7人が死亡・行方不明とな った(写真1)。ほぼ同一地点で7人以上遭難というのは、2004年以降では2009年8月の兵庫県佐用町本郷での9人遭 難のみで、集中的な遭難事例である。この地点では、被災住家対岸の沢から土砂が流出し、多量の水が流れる河川 に突入し、河川水が対岸まで乗り上げて家屋を損壊させたものと見られている(土木学会、2011)。斜面崩壊や土 石流などの一般的な土砂災害とは様相が異なる遭難形態と言える。土砂災害起因の犠牲者が多いが、洪水起因の犠 牲者も少なくない。典型的なのは20名前後が遭難した那智勝浦町井関付近(写真2)で、渓流沿いに土砂の流出も見 られるが、谷底平野全体を激しい洪水流が流下した痕跡が認められ、洪水と土砂災害の混合的な状況だったように 思われる。

写真1 十津川村野尻

写真2 那智勝浦町井関

 遭難場所別犠牲者数を集計すると図9となる。最近の豪雨災害による犠牲者の集計結果では、6〜7割の犠牲者が屋 外で遭難しており、いわゆる自宅で逃げ遅れた遭難者は少数派である。しかし、この災害では屋内犠牲者が多数派 で、一般的な傾向と異なっている。激しい降雨により避難が困難であったことなどが考えられるが、明確な原因は 不明である。

図9 遭難場所別犠牲者数

4.おわりに

 平成23年7月新潟・福島豪雨は、10年に満たない間隔で、よく似た地域によく似た規模(あるいはやや規模の大き な)の降雨がもたらされたことが一つの特徴である。どの対策が具体的に効果を発揮したかを特定することは難し いが、災害後に行われた様々な対策がなんらかの形で機能した可能性は高い。近年は、人々の意識など、ソフト対 策に目が向きがちかもしれないが、ハード対策とソフト対策は防災対策の両輪である。同程度もしくはやや大規模 な豪雨が生じたにもかかわらず家屋被害が少なかったことは、明らかにハード対策の効果であり、ハード、ソフト のバランスのとれた対策が重要であることが示唆された。
 台風12号災害は、もともと降水量の多い地域であっても、その地域で最近数十年間に記録された規模よりも大き な豪雨が生ずれば、大規模な被害に結びついてしまうことを示す事例と言える。豪雨災害においては、「この程度 の降雨があれば災害が発生する」という目安が地域によって極端に異なることが大きな特徴である。たとえば、今 回の新潟・福島豪雨で気象庁AMeDAS観測所の最多雨量は只見(福島県)の670个世、これは台風12号被災地の紀伊 半島にあるAMeDAS上北山、宮川、尾鷲などでは、1976年以降の上位3位に満たない値である。また、「ゲリラ豪雨」 などの言葉がよく使われ、短時間の強い雨に関心が向きがちだが、たとえ短時間の豪雨が生じても、総降水量が少 なければ大きな災害には結びつかない(牛山、2011)。台風12号災害は、長時間にわたって激しい豪雨が続くこと が大きな災害に結びつくことを、我々にあらためて警告してくれた事例とも言える。
 自然災害は、外力の種類、規模、発生場所など要素の組み合わせによって様々な姿を見せる。しかし、災害とい う結果を構成する一つ一つの要素は、これまでに繰り返し発生しているものである。過去に学ぶというのは、経験 や伝承のことだけではない。定量的なデータも含め、これまでに蓄積された様々な情報を生かすことが今後の防災 にとって重要である。

引用文献
土木学会:土木学会 平成23年台風12号土砂災害調査報告書、http://committees.jsce.or.jp/report/n ode/51、2011(2012年6月25日参照)。
牛山素行・高柳夕芳:2004〜2009年の豪雨災害による死者・行方不明者の特徴、自然災害科学、Vol. 29、No. 3、 pp. 355-364、2010。
牛山素行:「ゲリラ豪雨」と災害の関係について、水工学論文集、No. 55、pp. 505-510、2011。



No.109(2012夏号)
巻頭随想 危険物施設と津波災害
1.東日本大震災の教訓を踏まえた大規模石油タンクの地震対策に関する考察
2.東日本大震災を踏まえた危険物施設及び石油コンビナート施設の地震・津波対策について
3.石油タンクのスロッシングによる被害と地震動
4.コンビナート火災について
5.石油タンクの津波被害について
1.平成23年の風水害の概要と課題
2.平成23年の豪雨災害について
3.台風12号による深層崩壊ー 発生の場と時の予測に向けて ー
4.平成23年台風12号による災害の概要と消防機関の対応
5.平成23年9月4日に発生した台風第12号に係る紀伊半島大水害の記録 
災害時の実態からみた防災研修の在り方についてー 静岡県富士宮市の事例を踏まえて ー
連載講座 連載第16回 統計重視の改革・将軍吉宗と町奉行大岡忠相
地域防災実戦ノウハウ(72)
連載講座 第4回 江戸時代の消防事情
火災原因調査シリーズ(65)・自然発火火災
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