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1. リアルタイム地震防災システムとは

東京大学生産技術研究所 山 崎  文 雄

1. 何がリアルタイムか?

 「リアルタイム地震防災システム」という言葉が,最近,頻繁に聞かれるようになり,リアルタイム地震防災を銘打ったシンポジウムなども度々開かれるようになった。では,「リアルタイム地震防災システム」とは,何を指すのであろうか?この質問に対する答えは少々難しい。「地震防災」は明白であろうし,「システム」は体系化したものという意味であるが,ここでは主としてコンピュータシステム,またはコンピュータシステムを含む全体の仕組みを指すと考えて良いであろう。「リアルタイム」は,実時間,同時,即時などを意味するが,何に対してリアルタイムか,どの程度の時間遅れならリアルタイムと言えるかなど,様々な議論もなされてきた。
 「地震そのもの」についての実時間を目指して,日本では伯野元彦博士が,1972年に「10秒前大地震警報システム」を提唱している。これは,地震波の伝わる速度と電気信号の伝わる速度の差を利用して,地震波が到着する前に,警報を流そうというアイデアである。JRのユレダスは,実際にこの考え方を世界で最初に実用システムに取り入れ,新幹線の地震時緊急停止を行っている。また最近,気象庁と国土庁でも同様な発想で,重要施設や都市施設に直前地震警報を流す「ナウキャスト」に関する研究を行っている。
 次に,地震発生直後に(即時的ないし準リアルタイムに),揺れの情報を収集して,建物やライフラインなどの被害推定を行う「早期被害推定システム」も地震そのものに対しての即時性を追求したものといえよう。しかし,新幹線などと異なって,一刻一秒を争うという訳でもないので,地震発生後,数十分程度の時間内に被害推定が行えれば,「リアルタイム」に含める場合が多い。
 さらに,「地震防災」に対してリアルタイムということになると,地震直後はもちろんのこと,災害の進行状況をモニタリングし,タイムリーな対応策を提示するようなものも含まれるであろうし,復旧・復興の過程や,地震前の予防対策においても,その時々の状況に応じた「リアルタイム」もあり得よう。
 このように,「リアルタイム地震防災システム」という言葉に関する統一的な定義は未だ定まっておらず,幅広に解釈しようという意見もある。しかし,本文では,主として「早期被害推定システム」を対象として,その目的,現状,今後の課題などについて論ずる。

2. リアルタイム地震防災システムの意義と発展

 日本では,1995年1月17日の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の発生初期に被害情報がなかなか集まらず,様々な救助・救援活動が後手に回ったとういう反省が,リアルタイム地震防災システムの重要性を広く認識させるきっかけとなった。また米国では,兵庫県南部地震の1年前の同日に発生したノースリッジ地震において,CUBEという早期に震源情報を知らせるシステムの有効性が注目された。
 リアルタイム地震防災システムの基本的考えは,地震動を遠隔監視(モニタリング)し,その情報に基づいて,被害防止もしくは軽減のための対応を迅速に開始する点にある。実際の被害情報が得られにくい初動時期に,大まかな被害推定を行い,どの程度の対応が必要な災害の規模かを予測することは,その後の活動体制や方針を決めるのに大きな役割を果たす。防災関係者にとっては,被害の甚大な地区からの情報は集まりにくいとの認識が重要である。
 実際のリアルタイム地震防災システムの先駆となったのがJRのユレダスであり,最初に到達する縦波を震源の近傍で検知して,大きな横揺れが線路に到着する前に,列車を安全に停止させるものである。
 兵庫県南部地震と相前後して,地震直後にライフライン・建物・火災などの被害を推定し,緊急対応や初動体制の確立に利用しようとするシステムが提案・実用化された。その代表的なものが,東京ガスの地震時導管網警報システム(SIGNAL),川崎市の震災対策支援システム,東京消防庁の地震被害予測システムなどの「早期被害推定システム」である。
 このように,「リアルタイム地震防災システム」という言葉は,普通,ユレダスやCUBEのような「地震情報システム」と,SIGNALのような「早期被害推定システム」を指す場合が多い(図1)。前者は,地震計ネットワークと地震情報伝達が重要な要素であり,後者は,それらに加えて地震動分布の即時推定と地盤・構造物等のデータベース構築が必要である。
 兵庫県南部地震以後,地震防災対策の見直しが,国や自治体それにライフライン事業者などの大きな課題となり,その1つの柱として,地震計ネットワークの増設と早期被害推定システムの導入が積極的に進められた。この地震から間もなく5年が経過しようとしており,これらの地震防災対策も一通りのものが完了したようにも見える。しかし,それらのものが,実際の場合に有効に機能するためには,今後とも検討すべき課題が多いと思われる。

図1 リアルタイム地震防災システムの構成とその実例

3. 地震動モニタリングのあり方

 リアルタイム地震防災システムにおいては,地震動のモニタリングは必須の条件であり,地震計ネットワークと通信システムがその重要な構成要素である。
 地震計ネットワークについては,地震計の数と配置,観測項目(波形)と成分,地震計で計測する地震動指標,などが基本となる項目である。地震計の数と配置は,局所的に揺れ易い地域を見逃さないために,対象地域になるべく数多く,均等に配置されるのが望ましい。しかしながら,当然予算上の制約もあるし,地盤や構造物に関する情報の密度とも関係するので,どれくらいが適切かは一概には言えない。地震計の密度によって,地震動の空間的な分布をどのように推定するかが決定される。もし,地震計配置が都道府県に1カ所程度なら,距離減衰式(震度を地震マグニチュード,震源距離,地盤条件などの関数として表したもの)などによる推定が必要であるし,もし非常に密なら,観測値が周辺地盤の地震動を代表するとみなして良いであろう。しかし実際は,この中間程度の地震計密度の場合が多いので,距離減衰特性を考慮した空間補間法などの利用が望ましいと考えられる。また事前に,ボーリングデータや常時微動観測などに基づく地盤の地域分け(ゾーニング)を行い,地震計設置地点を決定することが重要である。
 観測する地震動は,被害推定の観点からは加速度波形が望ましく(速度波形は加速度波形より積分で計算できるし,計測震度なども全て加速度波形から計算できる),水平2成分と鉛直成分の計3成分の計測および記録が望ましい。制御用地震計や震度計などで,波形が保存されないものもあるが,貴重な波形データを捨てていることは残念である。被害とは関係のない小さな地震でも,地盤の揺れ易さの評価などにおいて,貴重な資料となるのである。
 計測する地震動強度指標としては,最大加速度,最大速度,SI値,計測震度などが主なものである。これらは,リアルタイム地震防災システムにおける利用法を考慮して,適当なものを選択すべきである。地震動強度指標と構造物被害の関係は,古くからの研究課題である。基本的には,構造物の固有周期が短周期から長周期に移るに従って,被害と相関の高い指標は,最大加速度,最大速度(SI値),最大変位へと移っていく傾向にある。
 従来,最も観測が容易な最大加速度が,都市ガスの地震時供給停止や高速道路の通行止めの基準として広く用いられてきた。また,その基準値も,河角式(1943年に河角博士が提案した震度と加速度との関係式)に対応する80ガル(震度5の下限値)や250ガル(震度6の下限値)などが使用されてきた。しかし,最大加速度よりSI値などの方が被害との相関が高いことが次第に明らかになり,近年の地震計の感度向上に伴って河角式が観測データと乖離するようになってきたことから,SI値などが制御基準として採用されつつある。
 このような観点からは,応答スペクトルは構造物周期を考慮した量であるので,構造物の被害推定には最も望ましいが,観測用の地震動指標としてはまだあまり普及していない。
次に通信システムについて考えてみよう。通信手段としては,無線,専用回線,公衆回線,通信衛星回線などがある。これらはデータ量,通信速度,費用,信頼性などを勘案して選択すべきである。地震時に通信回線の輻輳や通信設備の被害によって,震度情報が集まらない恐れもあり,重要度によってはバックアップ回線の準備も必要である。
 送信する情報としては,震源位置やマグニチュードを推定するためには,数カ所で観測された地震波形が必要となる。しかし,気象庁の震源決定も最近速くなったし,地震動分布や構造物被害の推定のためには,波形までは必要としないことが多い。したがって,地震動強度指標値を地震発生直後に収集し,情報量の多い波形は,その後に収集するようなシステムが現実的であろう。また,防災センターに送信するのみならず,放送型ポケットベルなどを用いて,防災担当者などに震度などの情報を速報する仕組みも有効と考えられる。

4. 地震計ネットワークの例

 日本には以前より,多数の地震計が設置されていた。しかし,兵庫県南部地震では「震災の帯」と呼ばれる震度7と判定された地域にほとんど地震計がなかったことなどの反省から,更に多くの地震計を配備しようという動きが活発となった。
 気象庁は,兵庫県南部地震をきっかけとして,計測震度の見直しを行うとともに,計測震度観測点を全国574箇所にまで拡大し,通信回線の多重化も進めた。インターネットによる震度情報の早期発表や(図2),気象業務支援センターを通して,高速デジタル回線による地震情報など気象データの配信サービスも行っている。これらを利用すれば,独自の地震計を持っていなくても,早期被害推定のための震源情報や震度情報を得ることができる。
 自治省消防庁も兵庫県南部地震を契機に,全国すべての市町村と東京23区の計3,255自治体に最低1台の計測震度計を整備するという「都道府県震度ネットワーク」構築の補助事業を行ない,気象庁の震度計または科学技術庁の強震計の設置していない約3,000の自治体に震度計が設置された。震度4以上の地震が発生した場合,各市町村からの震度情報は,都道府県を経由して,概ね15分程度でNTTのデジタル回線により消防庁に集められる。消防庁はこれを24時間体制で監視して,広域的な被害情報の把握や初動体制の確立に利用する。また各県の災害担当部署では,これを災害対策の初動情報として用いるため,それぞれ震度情報ネットワークのデータ収集・監視・管理などを行うシステムの構築を進めている。なお,消防庁と気象庁の間では,震度計の規格を統一するとともに,専用回線による地震情報の交換も行われるようになった。
 これらの地震計ネットワーク以外にも,多数の地震計ネットワークが,幾つかの省庁,自治体,ライフライン事業者などにおいて構築され,代表的な例が,本号で紹介されている横浜市の高密度強震計ネットワークや,東京ガスの超高密度地震観測システムである。
 また,名古屋市でも,市が16台の地震計を設置し,愛知県,名古屋大学,東邦ガスなど他機関のものと合わせて,計40台余りの地震計で地震動を監視するとともに,これと連動した「地震被害予測システム」を開発し,最近稼働を開始した。このシステムは,各機関で地震計の仕様が異なるという問題点を克服して,地震情報の共有化を目指した点が,とくに評価されよう。

 
図2 インターネットによる気象庁の震度速報

5. 地震被害想定と早期地震被害推定システム

 国や自治体では,以前より地震被害想定調査を度々行ってきた。また,兵庫県南部地震以降,多くの都道府県や政令指定都市が,新たに地震被害想定を実施している。地震被害想定と早期地震被害推定システムのフローを比較して図3に示す。両者は,実は検討の流れは全く同じであるが,違いは「想定」した地震か実際に起きた地震かのみである。従って手法やシステム等は,共通のものを使用でき,被害想定手法やデータをシステム化しておけば,地震動モニタリングと連結することで,早期被害推定システムを作ることは意外に容易である。
 従来,地震被害想定の結果は,マスコミ等で一時的に大きく取り上げられる反面,一般市民や専門家からもその想定結果の数字の信頼性には疑問が呈せられていた。それは,被害想定が,多段階の仮定の上に成立っているからと,それぞれの段階で大きな不確定性を含んでいるからである。
 被害想定では,1つないし複数の地震発生を仮定しているが,そのようなマグニチュードの地震が,想定した位置や深さで,想定した季節・時間帯に発生する可能性は極めて低い。仮に地震が発生したとしても,これらの条件を変えれば,以下の想定に大きな影響があることは明白である。次に,地震の諸元が正しくとも,地震動分布の推定は,かなりの不確定性を含んでいる。距離減衰式などの経験式は,地震ごとや地点ごとに,ばらつきが大きいことが知られ,同じ断層で地震が起きたとしても,破壊の開始点や伝播方向などで地震動分布は大きく変わってくる。
 しかし,ここまでの段階の不確定性は,早期被害推定においては当てはまらない。地震の条件は,実際に起きたものなので確定的だし,地震動分布も観測地点が多ければ,確定値に近いといえる。
 これから先の建物被害や人的被害の推定は,被害想定も早期被害推定も全く同様の条件であり,ともに多くの不確定性を含んでいる。地震動強さから建物被害を推定する被害関数は,不充分なデータに基づいた経験式が多く,かなりの推定幅があると考えるべきである。筆者らも,兵庫県南部地震の被害データに基づいた建物被害関数(図4)を提案しているが,別の地震や日本の他の地域にこれがそのまま当てはまる保証はない。
 最も一般に注目される人的被害が,最も推定が困難で,予測の信頼性が低いものであろう。多くの場合,建物倒壊以外の原因による死者発生は想定が難しいし,建物倒壊による死者の推定も決して容易ではない。経験式のもととなるデータの地震発生時間,季節,地域などが変われば,式自体がかなり異なったものとなることは容易に想像がつく。
 これらの不確定性に関する要因をまとめると,地震被害想定においては,1つの地震シナリオのみならず,条件を様々に変えるとどうなるかを把握することが重要で,その際,コンピュータ化した「早期被害推定システム」が利用できる。地震動が既知であったとしても,建物や人的な被害推定結果はばらつきが大きいので,数字そのものより,オーダーがどうかといった程度で,結果を利用すべきであろう。「早期被害推定システム」が,現実に大地震で働くことは極めて稀であろうが,それを用いて,事前評価や対策立案,訓練・教育に利用することの方が,実際の役割は大きいと思われる。しかし,少なくとも震度情報は現実のデータであるので,リアルタイム地震防災システムのうち,地震動モニタリングは最も重要な機能といえよう。

 図3 地震被害想定と早期被害推定システムの流れの比較

図4 建物構造と建築年を考慮した最大速度についての被害関数の例
(灘区の被害データに基づく木造建物の全壊発生累計確率)

6. リアルタイム地震防災の課題

 早期被害推定システムの課題としては,まずデータベースの整備が挙げられる。精度よく建物被害を推定するには,地震動分布推定に用いる地盤データと,詳細な建物構造や建築年のデータが必要となってくる。また,被害推定結果は被害関数の精度に依存するので,最新のデータと解析法を用いた被害関数の構築が大きな課題である。さらに,地震被害想定調査の延長として広く用いられてきた500m四方や1km四方メッシュを用いた地図表現は,地盤や建物の地域特性を詳細に表現するには不向きであり,町丁目やより細かいメッシュによる表現などの採用が今後必要となろう。先駆的な早期被害推定システムにおいては,これらの課題に対処するために,システムの見直しも行われている。
 システムとしては,地震前,地震直後,復旧・復興期と一貫して使えるものが有効であり,被害推定結果は確認情報が得られた段階で更新できるようにすべきである。このような観点からは,より高度な地理情報システム(GIS)の利用が必要となろう。被害情報の収集手段としては,高所カメラやヘリコプターからの映像,携帯情報端末やインターネットの利用,さらに最近は高精度衛星画像やGPSの利用なども実用化が近づいており,これらを取入れた総合的な防災情報システムへと発展するのが,今後の方向性と思われる。
 また,これまでは物理的な被害推定に重点が置かれてきたが,今後は,時々刻々の状況に応じて,対象とするシステムの機能低下と回復過程を評価できるような,機能損失予測ならびに復旧支援システムを開発していく時期にきていると考えられる。さらに,それぞれの防災機関同士で,お互いの地震(震度)情報や被害推定および確認被害情報などを共有化することが極めて重要である。「リアルタイム地震防災システム」が真に社会に役に立つかどうかは,このような今後の取組みにかかっているといえよう。



No.58(1999.秋号)
災害対応力と危機管理
1. リアルタイム地震防災システムとは
2. 地震防災情報システム(DIS)
3. 災害対応総合情報ネットワークシステム(フェニックス防災システム)について
4. 横浜市リアルタイム地震防災システム
5. 東京ガスのリアルタイム防災システムの現状と今後の展望
火災原因調査シリーズ(15)動物が原因で出火した火災事例について
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