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6.ハザードマップの作成と公開・提供に関する技術の展望 -GIS(地理情報システム)とインターネットの活用について-

横浜国立大学大学院工学研究科
博士課程後期  川 崎 昭 如

1.はじめに

 近年の情報通信技術(IT)の発展に伴って、ハザードマップの作成や公開・提供などの情報伝達の手法に関しても、新しい技術の活用が期待される。急速なインターネットの普及により、ほとんどの自治体においてホームページによる住民への情報公開・提供が行われており、近い将来、ハザードマップも多くの自治体のインターネット上で公開・提供されることになるであろう。そこで本稿では、ITの中でも国内で普及しつつあり、今後の発展・応用が望まれるGIS(地理情報システム)を活用した風水害に関するハザードマップの作成技術の紹介、そして、インターネットによるハザードマップの公開・提供に関する今後の展望について論じる。

2.GISを活用したハザードマップ作成 1)

ヾ躙韻奮海畔壊による被災危険区域の推測
 これまでの風水害に関するハザードマップ作成手法は、過去の発災履歴や紙地図から危険区域を推定した上で現場へ出向き、基礎調査などを行ない危険区域を特定し、地図上に記録するというのが一般的であったと考えられる。
 しかし、横浜市の様に広大な市域が丘陵地上に発達した大都市では、非常に多くの風水害危険区域が人命・家屋・道路・鉄道等の集積するところに存在しており、その全てにおいて調査を行うことは莫大な時間と費用が必要となる。また、これらの調査から危険区域を特定する際に明確な判断基準が定められていない場合も多く、ハザードマップを作成するにあたって客観性に乏しいという問題も生じる。
 近年は都市の空間基盤データの整備が進んでおり、日本全国において地形や標高などの空間データが容易に取得できる状況となっている。これらのデータからGIS上で空間解析を行うことで、同一基準のもと、客観的に危険予測区域を絞り込むことが可能である。図1は、「数値標高モデル(DEM)」と「土地利用」という2つのデータから、推測された崖(崖ポリゴン)である。横浜市内で崖崩れが最も多い南区全域において、県や市が指定する崖崩壊危険区域との比較検証を行った結果、解析により推測された崖ポリゴンと自治体の指定する危険区域は約90%が重なっていた。そして、指定されていないが同等の危険を持つ区域(指定外だが実際に崩壊した崖)も含まれていた。また、計算された崖の高さに応じて斜面方向に土砂が流出すると仮定して、崩壊の際の被災危険区域を予測することも出来る。これらの作業は、コンピュータ上で自動的に行うことができ、広大な地域においても一様に危険区域を推測することが出来た。更にこれらの被災予測危険区域に、建物等の個別の情報と重ね合わせることにより、崖ごとの被害の大きさを想定することも可能になる。今後はGISを活用して、道路や災害弱者施設等の情報と重ね合わせることで、災害時の緊急対応等にも活用できるであろう。また、自治体が調査や避難勧告等を行う際にも、情報を3Dなどで視覚化しておくことで容易に現場の状況を把握することができる(図2)。
 そして、この様なハザードマップを各家庭に配ることにより、多くの住民に崖崩壊による危険区域を容易に理解させ、防災意識を向上させることに役立つであろう。

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 風水害に関する被災危険区域は、雨の降り方・降水量により刻々と変化する。そこで、随時入手可能な雨量観測データから、その時点での風水害危険区域を予測して、自治体などの避難勧告や各種対策に役立てたり、インターネットやケーブルTVなどのメディアを通して、リアルタイムで危険区域を視覚化し住民へ情報提供することは、有事の際の迅速な行動につながると考えられる。
 図3は随時入ってくる雨量観測データから、崖崩壊の危険区域を推測したものである。これは、過去の崖崩壊と雨量の関係に基づいて、土質工学の分野で用いられている土中保留雨量の目安となる長期累積雨量と、その時点での天候を表す短時間雨量の二つの指標をGIS上で展開することで、危険区域を推測したものである。これらの危険区域を推測する基準式は、横浜市内の過去の崩壊事例から算出されたものであり、そこにその時点での雨量データを展開させたもので、主観の入る余地は無い。図3は、市内で13箇所の崖崩壊が発生した平成12年9月16日の19時時点での危険予測区域であるが、同日の他の時間帯での危険予測区域を重ね合わせると、場所と時間が特定できた12箇所の崩壊地点のうち10箇所(79%)が含まれることが分かった(図4)。

3.インターネットによるハザードマップの公開・提供2)




 従来のハザードマップは、大判の紙面上に、自治体全域の地図が表示されており、その中に風水害の被災履歴や今後の危険予測区域が表示されていることが多い。しかしこれらのマップから住民が自宅周辺の詳細な情報を得て、具体的な対策を立てることは難しいと考えられる。それ以前に、マップが全住民に配布されず、一部の自治会や町内会長にしか渡されない場合もある。この場合、一般住民がマップを閲覧するためには、自治体や図書館へ出向く必要がある。筆者らによる横浜市民を対象にしたアンケートでは、神奈川県が作成したハザードマップを実際に見たことがある人は7%、名前を聞いたことがある人は14%にとどまった(図5)。そこで、ハザードマップをインターネット上で公開することを想定したアプリケーションの作成と、その効果に関してのアンケート調査を行った。作成したアプリケーションを図6に示す。ここでは、従来のハザードマップの内容と、自宅周辺の状況がわかるように建物一軒一軒の地図を重ねることが出来るようにした。これにより住民は、具体的で詳細な情報を入手することが可能になる。
 81%の住民がこれらの情報をインターネット上で公開することに賛成であると回答しており、「いつでも見たいときに気軽に見られる」「具体的な情報を得ることで、適切な対処方法・防災対策がわかる」「自分の住む地域の情報が得られる」などの理由が挙げられた(表1)。これらはいずれも、住民自らの行動により情報を得ることで、防災対策などの具体的な対処方法を考えるなど、「住民が自ら考える」ことにつながっている。インターネット上の地図上で、自分が居住する区や町などを拡大することで、周辺の地図を呼び出し、更にそこから自宅を確認する。そして、「崖崩れ発生履歴」や「洪水・浸水発生予測区域」のボタンを押すことで、それらの情報が地図上に重なり、周辺のどこでどのような危険があるのかを自分の手で確認することができる。
 当然、これらの情報をインターネット上で公開するにあたっては、「情報の悪用」や「不動産価値への影響」、「プライバシーの問題」などの課題も挙げられるが、多くの住民は自宅周辺の状況がわかる「建物単位」レベルでの情報公開・提供を望んでいることが分かった(図7)。

表1 インターネット上での情報公開の
是非に関する理由(N=307)

4.おわりに

 はじめにGISを活用した崖崩壊のハザードマップ作成技術と、雨量によるリアルタイム・ハザードマップ手法を紹介したが、ここで活用したデータは比較的容易に取得できるものであり、解析手法もモデル化されており、他地域への配布も可能で汎用性が高い。これらのデータとモデルに、その地域の特性を考慮することで、簡易に地域の危険区域の推測を行うことが出来る。最新のレーザー計測デジタル画像撮影技術を使えば、高さ精度±15cmで地物の解析が可能である 3) 。これらのデータとモデルの改良により、今後はより精度の高い推測ができるであろう。なお、本研究で使用した崖に関するデータは、自治体内に存在する複数の既存「紙」資料をデジタル化・関連付けして解析を行ったものである。現在、e-Japan戦略により電子政府・電子自治体の設立が掲げられているが、単にこれまでの資料をデジタル化するだけではなく、今後はデジタル化を“活かした”政策・対策が求められるであろう。ここで紹介したデジタルデータとGISを活用したハザードマップの作成はその一例である。
 また、インターネットを活用したハザードマップの公開・提供も新しい可能性を秘めている。これまでは、「一方的」に与えられた紙地図を眺めることで、情報が住民の「知識」となっていたが、インターネットの活用により、住民が自らクリックすることで必要な情報を得る、という「双方向」へと変化したことがこれまでと大きく異なる。今後は、単に情報を与えるだけではなく、3Dや動画・音声などの多彩なマルティメディアを活用して、「住民に考えさせる」情報発信のあり方を考える必要がある。これも、現在のITの発展があるから可能になったことで、今後一層の発展が望まれる分野である。

【参考文献】
1) 川崎昭如ほか:崖災害対策へのGISの活用 -崖およびその被災危険区域の抽出と雨量による崩壊危険区域の公開-、GIS -理論と応用- Vol.9 no.2、p.25、2001
2) 川崎昭如ほか:自治体等の災害関連情報の公開のあり方に関する研究 -横浜市のおけるアンケート調査を通した考察-、2001年 地域安全学会梗概集 No.11、p.81、2001
3) http://www.ramse3d.com/



No.69(2002.夏号)
巻頭随想  長崎豪雨災害より20年
1.洪水ハザードマップの効果と今後の課題
2.ハザードマップに関する動きについて
3.洪水ハザードマップのとりくみ
4.土砂災害から身を守るために
5.北区荒川洪水ハザードマップについて
6.ハザードマップの作成と公開・提供に関する技術の展望 -GIS(地理情報システム)とインターネットの活用について-
救急業務の高度化と今後の課題(1)
救急業務の高度化と今後の課題(2)
救急業務の高度化と今後の課題(3)
◇火災原因調査シリーズ(25)-1_鉄道の火災事例
◇火災原因調査シリーズ(25)-2_鉄道の火災事例
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