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6.自主防災組織との協働-相互運用性の視点から-

同志社大学文学部教授  立 木 茂 雄

  自主防災組織のありようについて考える機会が最近続いた。手始めは、2003年3月にハワイ州マウイ島で開催された第7回日米都市防災会議の相互運用性部会の席上である。日米比較の観点から消防団や自主防災組織の重要性が浮かび上がり、防災における市民参画の障害をどのように取り除いていくのか、が日米共通のテーマであることが明らかになった。その翌月には、有珠山噴火時の地元自治体の調整活動に関する調査から、災害時における国や自治体の専門組織の活動過程が、その組織が対処する個別の課題のもつ性質に左右されていたという報告に接した。この2つの会の体験に触発された形で、自主防災組織の活性化のありようを、取り組むべき課題の性質や、組織文化の相違、そしてそれを克服するための相互運用性の確保策としての中間支援機能の強化といった視点から考えてみた い。

1. 日米比較の視点からみた消防団・自主防災組織の効用

  日米の会議のなかで、相互の違いが如実に表れたのは、消防団や自主防災組織の社会における位置づけについてであった。
  部会参加者の一人である筑波大学の熊谷良雄教授は、阪神・淡路大震災時の消火活動の検証結果をもとに、消防団や市民の参画の有効性について発言された。震災直後、神戸阪神間では、常設の消防車の台数の倍以上の火災が同時に多発した。この時の神戸市・西宮市・芦屋市の3つの自治体の対応を熊谷教授は比較検証している。それによると、神戸市では常備消防だけで消火活動にあたったが、多勢に無勢で火勢を食い止めることができなかった。一方、芦屋市では消防団と市民が消火の主要な担い手となり、またその東隣の西宮市では常設消防と消防団が手分けをして消火活動にあたった。芦屋市・西宮市とも相当の成果を収めている。
  以上の結果をもとに、大規模災害時には、常設消防・消防団・一般市民という3者のうちの最低2つ以上の協働がなければ火災は食い止められない、というのが熊谷教授の総括であった。
  これに対して専門職社会である米国側の参加者からは、米国の都市部では自治体と消防士組合との長年の合意から「一般市民が消化活動に直接従事することは難しい」といった意見が出された。専門家至上主義のために、一般市民の自主防災活動は、予防的措置や探索救助などの活動に限定される、というのである。
  防災や消火活動への一般の市民の参画は、現時点では米国より日本の方がはるかに積極的である。ところがその一方で、特に日本側の参加者からは、現実の市民参加・参画が理想のものとはいえない、もっと積極的なものになりうるはずだ、参加を阻む障壁が存在している、といった意見があいついで出された。
  結局、市民参画の障壁をどのように取り除いていくかは、日米ともに今後の重要な防災学の課題であることが一致して確認されたのである。

2. 災害時の組織的対処には2種類の過程がある

  日米の会議から帰国して2週間後に、京都大学防災研究所巨大災害研究センターで開かれた定例のセミナーに出席する機会を得た。災害時の組織的対処には、統制モデルと問題解決モデルという2つの型があるとする奈良女子大学の野田隆助教授の当日の報告を以下に紹介しよう。
  統制モデルでは、非常時に民間人の判断力は低下するので、指揮命令系統を人工的にでも強化し、冷静な意思決定を行えるよう日頃から訓練を積んだ少数の専門家をトップとする集権的な体制によって、対応能力を補う必要があると考える。有珠山噴火時に統制モデル的対応を発揮したのは、国の現地本部(ミニ霞ヶ関と地元では呼ばれた)、警察・消防・自衛隊、保健医療サービス活動班などであった。
  一方、災害時でも既存諸組織間の調整を進めることによって対処が可能と考えるのが問題解決モデルの特徴である。災害時にあっても既存の社会構造がもっとも有効であり、社会の諸単位の合理的な意思決定は減じられない。したがって諸単位間の調整こそが対応の中心となるべきである。緊急事態は分権的・多元的な問題解決を必要とするのであって集権化はなじまない、と問題解決モデルでは考える。
  有珠山噴火時に伊達本部で起こっていた調整活動を調査してみると、伊達本部内のサブグループ会議を通じた事前調整活動は問題解決モデルの好例であることが分かった。このサブグループ会議の場で、地元自治体内の各部署や、警察・消防・自衛隊など互いの組織が何をするのかについての理解形成(すりあわせ)が行われていた。
  有珠山噴火時における組織間調整にあたっては、統制モデル的対応と問題解決モデル的対応が混在していた。では、何が対処の仕方に違いを生むのか。それは、対処する課題の性質と関連する、というのが野田助教授の分析である。
  課題の性質について、課題が「単発か継続的か」、課題遂行が「一組織独立で可能か、複合的か」という2軸をもとに災害時の組織活動を分類する。そうすると、通常の救急や消火活動にあっては、単発課題を消防組織が独立に対応することが大半であり、緊急時や危機時にあって著しく判断の低下した被害者に対してトップダウン的に対応している。つまり常設消防の組織にあっては、日頃から統制モデル的対応が行われていると考えて良い。
  野田氏の2軸の分析枠組みを自主防災組織に当てはめて比較すると、地域では日常のレベルで防災活動が継続されなければならず、しかも参加する面々は単一の組織からではなく、さまざまな地域住民層を複合的に組織化する方が効果的である。したがって、意思決定では問題解決モデルが想定するようなすりあわせ過程が重視されることになる。

3. 課題が組織を作り、組織文化が成員の考えかたを方向づける

  日米都市防災会議の部会の討議では、消防に代表される行政側の組織と、住民が主体となって活動する自主防災組織との協働には現実に障壁があり、これを乗り越える枠組みを明らかにすることが今後の課題として浮かび上がった。その一方で、野田助教授の報告は、解くべき課題の性質と組織の対応過程が密接に関連していることを示唆した。
  この2つのテーマを結びつける考え方が社会学には昔から存在している。それは、人と人とのつながりは、特定の課題を解決するなかで最適なものに組織化されていくが、その結果として一定の組織構造や組織文化が形成されると、組織文化がその後の成員の考え方や行動のしかたを固有のものに方向づける、というものである。
  救急や消防といった「単発・独立型」課題の対処をそもそも念頭に置いて組織化された常設消防組織は、統制モデル的対処を効率的に進めることが優先される。結果として組織はピラミッド型の形態となっていく。そこで醸成される組織文化では、個人は組織上位者の指導・監督下で活動することにより合理的な対応体制を組むことができると考えるようになる。
  これに対して自主防災組織では活動課題が「継続・複合型」の対処を要求するために問題解決型対処(すりあわせ)に効率的であるヨコ型のネットワークを形成するようになる。この組織文化にあっては、合理的な判断のためには成員間の互酬・対等・開放・信頼が鍵となる。
  行政側の防災担当者が市民参加や参画には障壁があると感じられるのは、恐らくは、物理的な障壁ではなく、このような組織文化の違いに由来するものが大きいのだと思う。人は一定の文化の中で暮らしていると、自分たち以外の他者も同様の行動様式を取るものだと暗黙のうちに思いこむようになる。
  たとえば消防組織がピラミッド型であるために、「育成する」(このコトバ自体が大変統制モデル的発想である)自主防災組織もピラミッド型形態をなぞらえる傾向が強い。これまで機能してきた消防団などの地域のピラミッド型地縁組織は、しかしながら現在は若手参加者減に苦慮している。一方で防災を専門とするNPOやボランティアなどのネットワーク型組織は災害現場での活動の実績を積みつつある。
  あるいは、防災の訓練や教育でも、統制モデル的対応では、繰り返し訓練や座学的情報提供などトップダウン的な方法が取られやすい。しかし、市民サイドでは調整過程を前提とするので、互酬・対等・開放・信頼を重視するワークショップなどの体験的学習の過程がより親和性を発揮している。

4. 中間支援システムを通じた相互運用性の確保に向けて

  日米の会議で、そもそも筆者が出席したのは災害対応における相互運用性について考える部会であった。実は、本稿もピラミッド型組織(常設消防)とネットワーク型組織(自主防災組織や災害NPO・ボランティアもふくめた市民組織)をうまく連携・接続させる手だてをどのように確保するのか、という相互運用性の問題であることが明らかになってきた。
  相互運用性とは、知識・情報・サービスが、異なる組織やシステム間で自由に流通し、移転可能となるように、運用に互換性が確保されていることである。
  たとえば異なった銀行間のATM機を使って相互に運用ができているのは、各銀行独自のシステムを仲介する別のシステムが間に介在しているからである。間に介在する中間支援システムが、異なったシステムの間の知識・情報・サービスの流通の障壁を取り払う働きをしているのである。
  防災における常設消防や行政諸組織というピラミッド型の形態を取る組織と、市民・自主防災組織・ボランティア・NPOといったネットワーク型の市民組織との協働の確保も、同様の中間支援システムが効果を発揮すると筆者は考えている。
  協働を確実なものにする中間支援機能や組織の重要性とその効果は、阪神・淡路大震災や日本海重油災害以来、繰り返し実証されてきた。
  あるものとあるものとの間で大きな力の差がある時、力の弱い側は「間に立つ(中間支援)者」を介することで対等な立場を確保できる。防災における市民組織が行政や企業とうまく協働できるためには、以下のような中間支援の機能が必要となる。|膕陲箘鏡を通じた資源調達や会議・作業スペース提供などのインフラ機能、確執が起こりやすい当事者の間に立って解決に努力する仲裁や調停の機能、市民組織と行政・企業を連携させてネットワークをつくることにより、結果的に市民組織の団体としての公益性をかさ上げする機能、た靴燭併毀荏反イ領ち上げを支援する孵化機能、そしてジ帖垢了毀荏反イ粒萋阿魑甸囘に裏付ける評価・調査・研究をおこなうシンクタンク機能である。
  阪神・淡路大震災後、防災に限定せず市民活動全般の底上げをはかるには中間支援機能を強化することが肝心であるという認識のもと、日本各地で中間支援組織が立ち上げられてきた。このような市民活動の知恵を再度防災プロパーの分野に逆輸入することが、現在求められているのだと思う。



No.72(2003.春号)
巻頭随想 生きた防災地域づくりに期待する
1.自主防災と行政
2.市民防災組織のこれから〜自立、共助、減災の教訓の具体化〜
3.自主防災と防災街づくり
4.災害のリアリティと想像力の<拡張>-自主防災活動の活性化をめざして-
5.市民をエンパワーメントする手段としての自主防災組織
6.自主防災組織との協働-相互運用性の視点から-
7.自主防災組織の役割とその活性化
8.自主防災組織活性化への新しい試み-静岡県における地域防災指導員養成プログラムの狙いと背景-
東海地震及び南関東直下地震などを巡る最近の情況と防災対策(1)
東海地震及び南関東直下地震などを巡る最近の情況と防災対策(2)
第7回防災まちづくり大賞について
◇火災原因調査シリーズ(28)_電気火災
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