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3.会議の「見える化」で進めやすかった支援ー県市合同会議

時事通信社 防災リスクマネジメント
Web編集長  中 川 和 之
  

 災害時の応急対策は、情報の共有がカギになる。事態がどう推移しているのか、問題点はどこにあるのか、見落としている点はないかなど、できるだけ情報を集めて関係者間で共有し、認識を合わせて対応することが不可欠だ。阪神・淡路大震災の反省から、情報はかなり集まるようになってきた。ただ、ややもすると、国や県が、それぞれの立場に必要な情報を、市町村や出先から吸い上げることが優先されがちなのが難点で、現場の市町村では相変わらず情報不足のまま混乱する場面は少なくない。能登半島地震では、連日輪島市役所で開かれていた県市合同会議の場が、市町の現場と県、関係省庁の情報共有に重要な役割を果たし、さまざまな対策をスムーズに進めることにつながった。
 この会議は、石川県の現地災害対策本部と輪島市の合同会議との位置づけで、地震発生翌々日の28日から始まり、4月24日までの約1カ月間、開催されていた。輪島市役所の会議室で毎日、開催され、県現地対策本部と県警、自衛隊、輪島市、穴水町、内閣府や国土交通省、厚生労働省、農水省などが参加。新潟県や大学の専門家などの支援者や、ボランティアセンターの代表も顔を並べた。衛星中継を使ったテレビ会議システムが導入され、首相官邸や霞が関の各省庁、県庁にも中継されていた。内閣府の会議室でマスコミにも公開されていたため、私が現地にいた3月29日以外は、会議の模様を霞が関で取材できた。その概要は、メモにして防災リスクマネジメントWebの案内ページで公開した。このページを見た霞が関の関係省庁の担当者や、災害対策の専門家たちからは、「現場の自治体の対応状況がここまで即時的に分かったことはない」との声を聞いたため、ここで紹介させていただく機会を得た。

活かされた内閣府の検討会報告

 この県市合同会議は、最初から計画されていたわけではない。石川県の現地対策本部は、地震発生から3時間足らずで、能登空港ターミナルビル4階にあった県奥能登総合事務所に設置された。空港機能は翌朝には回復したが、場所的には被災現場から遠く、輪島市などと連携が取りにくい状態が続いた。防災担当大臣とともに現地入りした内閣府、厚労省、国交省、総務省消防庁などの担当者が、そのまま現地に残って輪島市役所内に連絡対策室を開設していたこともあり、3月28日に県の現地対策本部を輪島市役所に設置し、県や市の対策本部会議とは別に、県市合同会議を開催することになった。
 政府の連絡対策室が輪島市役所に即日設置されたのは、内閣府が05年度に「大規模災害発生時における国の被災地応急支援のあり方検討会」を設けて、政府としての現地対策本部の役割や設置の仕方などについて検討していたことが大きい。現地合同情報先遣チームの派遣から市町村への要員派遣、テレビ会議など、検討の結果をそのまま活かした形になった。
 地元自治体に政府の拠点を置くのは、2000年の有珠山噴火の際、噴火直前から伊達市役所内に政府の現地対策本部が置かれ、避難対策などで即断即決をする体制を取って以来だ。新潟県中越地震では、現地支援対策室を被災地から離れた新潟市の県庁内に置き、市町村をまたぐ広域オペレーションの支援はやりやすかった反面、被災自治体との温度差が指摘されていた。能登半島地震では、輪島市を中心にした被災だったこともあり、輪島市役所に連絡室を開設し、市庁舎内の合同会議につながった。今年の新潟県中越沖地震でも、柏崎市役所内に政府の連絡室が開設されており、拠点の開設については能登方式はほぼ定着してきたようだ。

即断即決の場面は全面公開

 この会議は、県の現地対策本部長が議長を務め、梶秋文輪島市長と石川宣雄穴水町長(4回目から)が参加した。市や町、県の各セクションや県警、関係省庁がそれぞれ実施事項と課題を報告し、主に市町から要望事項が上げられた。「県としてできる限りの対応をしたいので、何なりと」(第2回会議での県現地対策副本部長)という姿勢で現場の市町からの要望を受け止め、だされた要望事項は、その場で関係部署に確認して実施を指示する「即日に対応方針を決めてすぐにやっていく」(第17回会議で県現地対策本部長)やり方で進めた。
 コの字型に並べた机の中央にはテレビ会議システムが置かれ、席数は20人でいっぱいの会議室に、多いときは60ー70人が入った(写真は29日夜の会議中の様子)。石川県は、以前から災害対策の会議を公開していたため、合同会議もそのまま公開された。県がこの種の会議を公開するのは、北朝鮮のミサイル発射情報によって開催した会議などのころからの通例で、県庁での災対本部会議も公開され、知事が部局長に対して「もっと柔軟な対応をしろ」などと厳しく指摘する場面まで公開されていたという。地震以前に輪島市が、災害対策本部を開設する図上訓練を実施しており、「訓練をやっておいたのはすごく効果があった」(梶文秋輪島市長)ことも、全体のスキームをスムーズにした。

写真:テレビ会議システムが真ん中に置かれた合同会議(関係者や記者も含めてぎっしり)写真:県市合同会議の様子
写真:合同会議で発言する梶輪島市長

 災対本部の会議の公開は、何かを隠しているのではとあら探しをしがちなマスコミに余計な詮索をさせないというメリットもあった。能登半島地震では、揚げ足を取るような報道に出くわさなかったのは、この公開の成果といえるのではないか。ただ、会議は公開されているものの、その場で出された資料などが、ホームページで公開されていなかったのは残念だった。
 輪島市の災害対策会議は、合同会議とは別に非公開で行われていたほか、合同会議の前には少人数の関係者で要点を確認していたと言うが、いわゆる御前会議にありがちな事前の打ち合わせ通り進めるような形式ではなく、誤解に基づくやりとりと思う内容まで、そのままオープンに議論されていた。避難者や避難所の動向や仮設住宅の要望と建設戸数の調整、道路の復旧など、刻々と変化している事態を元に調整が進む様子がよく分かり、マスメディアでは伝えられないいくつかのテーマでのやりとりを紹介する。

当初は理解されなかった生活再建支援法適用の意味

 被災自治体は、必ずしも災害対策の法制度に詳しくない。避難所や仮設住宅、炊き出しなど、応急救援の財源法である災害救助法は、阪神大震災の後に大幅に運用が見直され、元から“何でもできる法律”だったものが、もっと使いやすくなっている。しかし、能登半島地震では立ち上がり時に石川県が法適用の重要性を把握していなかった。これは、今年9月に台風11号と前線による大雨で被災した秋田県でも同様で、制度の誤解に基づく知事発言が混乱を招いた。
 さらに、生活再建支援法は、まだできて数年の新しい制度で、普段使わない上に、新しい制度だと災害対策の担当者が選挙事務も兼ねているような小規模自治体では、詳細な理解を求めるのは困難だ。国や県は、その前提で、被災自治体が何を対応できていないかの情報をキャッチすることが重要になる。
 命を守る時間帯が一段落した数日後になると、被災後のくらしの再建を進める手がかりになる生活再建支援制度が適用されることで、幾ばくかの支援を受けられるという見通しがたち、被災地住民が難局に立ち向かう意欲をかき立てることにつながる。1回目と2回目の合同会議で内閣府の出席者が適用検討を勧めたが、会議時点では県市ともピンと来ていない様子は、現場にいた私もありありと感じた。災救法も支援法も、全壊戸数などが適応要件になってはいるものの、厳密な被害査定までしなくてもいいなど、運用の使い勝手は悪くないのだが、条文だけを読んでもすぐには理解できない。そのため、29日の合同会議終了後に、私も一緒になって石川県や輪島市長、穴水町幹部らに災害救助法や生活再建支援法をレクチャー。さらに国と自治体の担当者ベースでの情報交換も経て、4日後に県が独自の上乗せ制度も加えて適用を発表した。これらのいきさつは、28日から30日までと4月2日の会議メモの中からも読み取ることができる。
 また、罹災証明や生活再建支援法の相談実施のために、応援職員の確保や、新潟県や大学研究者らによる研修を実施するなどのプロセスも、通常は経験知として残るだけだが、この会議のメモを読むだけで、どういう手が打たれているかが見えてくる。

道路などの応急復旧と査定支援

 被災後の自治体業務について、目に見える部分はけっこう知っているつもりだったが、今回、よく分かったのが、復旧に関する費用算出とその査定業務の負担が少なくないということだった。国交省北陸地方整備局や農水省北陸農政局が、被災自治体の職員と一緒に被害査定を行うことで、早期の復旧工事着手が可能になる過程が、毎日の派遣人員や機材の投入の報告で分かる。輪島市の要望に基づいて被害査定に着手していたが、穴水町にも県側から支援要請を打診するなど、この会議がなければスムーズな支援も行われなかったことがうかがえる。被災査定支援は、新潟県中越沖地震でも行われ、これらの経験も踏まえ国土交通省は来年度予算で「緊急災害対策派遣隊(TECーFORCE)」の創設を要求している。
 いくら災害時とはいえ、被災自治体の市長が県知事に要望するというのはそう簡単ではないが、県の現地対策の責任者もでている会議での要望は話が進みやすい。その一例がヘリの待機だ。まだ高速道路が復旧していない3月29日、避難所で様態が急変した人を応急復旧した道路を使って金沢市内まで陸路で搬送したことから、輪島市長が能登空港へのヘリ常駐を要望。31日から県の防災ヘリが駐機をし、実際に4月5日には避難所で急性心筋梗塞となった患者をヘリで金沢市内に運んでいる。
 一方、災害ボランティアに関しては、認識の違いも会議で浮き彫りになった。3月28日に輪島市長が「ボランティアコーディネートへの支援を」と求めたのに対し、29日に県の担当が「県職員200人を派遣するので、ボランティアへの指示などを」と発言。内心「県職員がボランティアコーディネートなんてできない」と感じた人は私だけでなかったようで、一瞬、びっくりしたような雰囲気が流れた。その話題の次に、地元警察署が支援を求めた駐車場整理要員に県職員を振り分けられないかという議長からの検討指示もあった。
 泥のかき出しなど一気に大量の人手が必要になる水害と異なり、地震災害の被災1週間の段階ではまだ大勢のボランティアを受け入れられる状況にない4月1日の段階で、県サイドで申し込みを受け付けた週末のボランティアが1,000人を上回っていることも記録されている。8日の会議では、内閣府からの発言として「輪島市と穴水町のボランティアセンターの運営は問題ない」という記録が残っているが、この段階ではまだ県庁サイドとの意思疎通が不十分だということを暗に示唆しているように聞こえた。4月中旬になって、中越地震で被災した自治体の首長が石川県知事にボランティアに関するアドバイスをしたことや、ボラセンの代表者が合同会議に参加するようになって、ようやく意思疎通ができるようになったと聞いており、そのプロセスも記録から読み取れる。

「非常にうまく行った」と国、「情報不足が解消」と穴水町

 4月24日の最後の合同会議の席上、石川宣雄穴水町長は「会議の参加で情報不足が解消され、国や県職員から直接指導を受けられて、大変スムーズにできた。住民に特別な不安を与えることなく、納得してもらえることができた」と語り、内閣府側も「合同会議方式は、国から見ても非常にうまくいったと思う。毎日の会議は衛星中継で総理官邸でも、各省庁でも見ることができ、現地の情報共有ができ、何が問題なのかよく把握できた。ほぼ狙い通りの効果が上がった」と発言している。
 新潟県中越沖地震では、柏崎市の災害対策本部に政府の連絡対策室が設置されたのは同じだったが、県市の合同会議ではなく、市の対策会議に県や政府関係者が参加する形になった。この会議も公開され、市が作った議事メモは現地で配付されていたため、同様に防災リスクマネジメントWebで公開した。ただ、国や県などは市の会議に参加するという型式で、連携が目的の会議でなかったことなどから、関係機関の報告をしあうにとどまっていた感じが強い。やはり、都道府県という中間組織がコーディネーターになることで、国や市町村が活動しやすい面があるのではないか。
 これらの経験から、
 (1)市町村を中核に置いて、ボランティアや研究者までも参加する合同の会議、(2)できればテレビ会議中継も含めた情報の公開ーは共通して行ってもよい方式だと考える。また、特定の自治体の災対本部会議と同一でない方が、他の自治体も参加しやすくなるだろう。まだ、これらの仕組みは、災害の状況に応じて試行錯誤の面はあるが、貴重な経験として共有しておきたい。(了)

防災リスクマネジメントWeb
能登半島地震の会議記録
http://bousai.jiji.com/info/noto_jisin.html
新潟県中越沖地震の会議記録
http://bousai.jiji.com/info/tyuetu_oki.html
内閣府:大規模災害発生時における国の被災地応急支援のあり方検討会
http://www.bousai.go.jp/shien_kentou/h17.html



NO.90 (2007.秋号)
巻頭随想 自然と付き合って活きるために
1.能登半島地震・新潟県中越沖地震の概要
2.能登半島地震、新潟県中越沖地震における緊急消防援助隊の活動状況について
3.会議の「見える化」で進めやすかった支援ー県市合同会議
4.簡易型地震被害想定システムとその活用ー2007年能登半島地震、新潟県中越沖地震ー
5.緊急地震速報の提供開始〜地震被害を少しでも軽減するために〜
6.阪神・淡路大震災10年以降のボランティア活動ー中越地震から能登半島地震へー
連載講座 連載第6回 防災監のための危機管理講座
連載講座 連載第2回 情報と防災
地域防災実戦ノウハウ(53)
火災原因調査シリーズ(46)・コンロ火災
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