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4.簡易型地震被害想定システムとその活用ー2007年能登半島地震、新潟県中越沖地震ー

消防庁 消防研究センター
 座 間 信 作
  

1 .はじめに

 地震直後の防災関係機関での初動体制の確立においては、先ず要員の非常参集を確実に行うことが必要である。通常、自治体等では当該地域が震度5強程度で職員全員を招集する非常体制に移る。地震時に当該地にいれば、当然揺れを感じTV等での震度の確認が可能であるが、特に災害対策本部の長となる首長が不在の場合があり、時に地震情報を逃がし、迅速な初動体制確立、適切な応急対応等に支障をきたすことも考えられる。
 一方、我々は、兵庫県南部地震の翌年に、精度は多少犠牲にしつつも迅速かつ容易に被害推定が可能な“簡易型地震被害想定システム”を開発した1)。このシステムは既に1,900以上の団体・個人に頒布されている。このシステムの拡張として、気象衛星「ひまわり」からの地震情報を自動取得し、予め登録したユーザーの携帯電話に対して、推定結果をメールで自動配信することを試行してきた。
 本稿では、この簡易型地震被害想定システムの概要と拡張システムの最近の被害地震での稼動状況等について紹介する。

2 .簡易型地震被害想定システムの特徴

 このシステムは、通常のパーソナルコンピュータを用いて、任意の地震に対して誰でも簡単な操作で被害推定が可能である(図1)。また、被害項目数および精度は多少犠牲にしつつも即時的に推定結果が得られる(県レベルで1〜2秒)こと、行政界にとらわれない広域の想定ができること等から、図上訓練のシナリオ作成、情報リテラシー訓練2)、消防計画等の事前対策はもとより、情報の空白を埋め、効率的な応急対応への活用も可能となっている。

図1 簡易型地震被害想定システム画面表示例

 本システムに用いられているデータは、無償で入手できる国が整備した国土数値情報※1と国勢調査地域メッシュデータ※2であることから、本システムは全国を対象とした地震被害推定が可能で、通常の被害想定に比べてはるかに少ない労力、予算で実現された。それ故、本システムは極めて廉価(実費7,500円:消防科学総合センター)で入手できる。
※1地震動の推定および結果等表示に用いた国土数値情報は、1974年に旧国土庁が発足して以来整備されてきている。整備項目のうち、本システムで用いた情報は、海岸線、標高、地形分類・表層地質等、河川の流路位置、行政界等に関するものである。これらの情報は、全国約39万の約1辧1劼離瓮奪轡緞茲法緯度・経度の情報と併せてその内容を表すコードによって与えられている。
※2建物被害等の推定に用いた国勢調査地域メッシュデータは、国勢調査結果を国土数値情報と全く同じメッシュ(但し、人口集中地区では500mメッシュ)に対して数値化したもので、本システムでは、その中から、人口総数、世帯総数、住宅の建て方別住宅に住む一般世帯のデータを用いた。

3 .地震被害想定手法

 本システムの主な活用方法の一つとして、地震直後に被害のリアルタイム推定を行うことが挙げられる。その場合には、地震直後に最も早く入手できる気象庁公表の震源要素、地震規模を用いる。従って、震源断層を点震源で近似する。地震動強さとしては、被害との相関が最大加速度より高いとされている最大速度をとる。
 推定手順として、先ず震源距離と地震規模の関数である経験式(距離減衰式)を用いて、工学的基盤(地下のS波速度で600m/s程度の硬質地盤)での最大速度を評価し、ついで表層地盤の増幅度を乗ずることで地表面最大速度Vmaxを得る。地盤の増幅度は、国土数値情報から推定される深さ30mまでの平均S波速度3)の関数として近似的に与えられる4)
 このVmaxを用いて死者数、家屋被害数、出火件数、負傷者数、避難者数を推定する。被害の評価式は数多く提案されているが、その中からVmaxに基づく木造家屋被害に関する研究成果5)を取り上げ、更に木造家屋被害から出火件数6)、死者数7)、負傷者数・避難者数8)が推定できる評価式を選択・構築した。

4 .リアルタイムシステムとしての利用例

 消防庁危機管理センターでは、地震直後の初動体制支援(職員参集支援、災害対策本部等応急体制の早期立上げ、被害イメージの共有)に本システムを用いている。そこでは、防災情報システムあるいは震度情報ネットワークからの地震情報に係るメールを常時監視し、その情報を本システムに送信し、自動計算を処理するコマンドを発し、計算完了のメッセージを受け取ると、計算結果のファイルをWEBページとして成型し、WEBサーバに登録を行うという処理プログラムが稼動している。
 また、消防研究センターでは、試行的ではあるが、衛星「ひまわり」からの地震情報を用いて瞬時に被害推定を行い、その結果を登録者の携帯電話にメールで自動配信している。登録者は防衛省、消防庁、消防研究センター等の有志で、非常参集等危機管理のための一情報として利用している。
 2007年3月25日9時42分に発生した能登半島地震では、筆者の携帯電話には9時48分にメールが届いた。その結果は出火5(実際0、消防庁被害報による、以下同)、死者3(1)、負傷者(重症)13(30)、家屋被害27(609)などであった。また、2007年7月16日10時13分に発生した新潟県中越沖地震では、丁度休日で小旅行をしていた筆者の携帯に、地震発生後8分ほどでメール(火災1(3)、死者数6(11)など)が届いた(図2)。そのときこの情報を見て、能登半島地震程度かそれ以上の被害が出ている恐れが高いと判断し、被害調査等について連絡を行った。

図2 新潟県中越沖地震でのメール受信情報
(ログから再現)

5 .今後の展望
 ーおわりにかえてー

 本年10月から緊急地震速報の提供がスタートした。消防庁では、この情報を全国瞬時警報システム(J-ALERT)によって、住民等に周知することとしている。この情報に基づく被害推定も本システムを用いることで可能であり、通信の輻輳の影響を受ける前に遅滞なく結果を受け取ることができると期待される。
 気象庁から試行的に発表された情報によれば、新潟県中越沖地震では第1報は10時13分29.3秒に送信された。この時、発震時から3.8秒経過している。以下、第10報は50.7秒後、最終報は51.2秒後となっている。この情報に基づいて被害推定を行った結果を図3に示す。これによると、例えば死者数は0から350名程度、全壊家屋数は0から6,000棟程度、火災件数は0から40件程度までと大きくばらつく。なお、CPU 1.29GHz、メモリー1GBを登載したPCでの計算時間は0.9秒であった。従って、時間とのせめぎ合いの中で確からしい情報としてどれをとるかが大きな課題といえる。逆にそれから得られる情報をいかに減災に役立たせるかは、ユーザーの更なる情報リテラシーの向上2)にかかっている。

図3 新潟県中越沖地震で発表された
緊急地震速報を用いた被害推定(震度分布)

参考文献
1)座間信作、細川直史:簡易型地震被害想定システムの開発、消防研究所報告、No. 82、pp. 26-33、1996
2)日野宗門:地域防災実践ノウハウ(27)、消防科学と情報、64、pp. 51-59、2001
3)Midorikawa, S.: Preliminary analysis for attenuation of peak ground velocity on stiff site, Proc. Int. Work. on Strong Motion Data, 2, 39-48, 1993
4)松岡昌志、翠川三郎:国土数値情報とサイスミックマイクロゾーニング、第22回地盤震動シンポジウム、23-34、1994
5)童華南、山崎文雄、佐々木裕明、松本省吾:被害事例に基づく地震動強さと家屋被害率の関係、第9回地震工学シンポジウム、2299-2304、1995
6)水野弘之、堀内三郎:地震時の出火件数の予測に関する研究、日本建築学会論文報告集、250、81-90、1976
7)田村和彦、安藤 潤、塩野計司:人的被害の発生に及ぼす地震発生時刻の影響ー木造建物の震動被害による死者を例としてー、第9回地震工学シンポジウム、2335-2340、1995
8)座間信作、遠藤 真、細川直史、畑山 健、簡易型地震被害想定システムの改良、消防研究所報告、90、1-10、2000



NO.90 (2007.秋号)
巻頭随想 自然と付き合って活きるために
1.能登半島地震・新潟県中越沖地震の概要
2.能登半島地震、新潟県中越沖地震における緊急消防援助隊の活動状況について
3.会議の「見える化」で進めやすかった支援ー県市合同会議
4.簡易型地震被害想定システムとその活用ー2007年能登半島地震、新潟県中越沖地震ー
5.緊急地震速報の提供開始〜地震被害を少しでも軽減するために〜
6.阪神・淡路大震災10年以降のボランティア活動ー中越地震から能登半島地震へー
連載講座 連載第6回 防災監のための危機管理講座
連載講座 連載第2回 情報と防災
地域防災実戦ノウハウ(53)
火災原因調査シリーズ(46)・コンロ火災
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