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連載講座 連載第6回 防災監のための危機管理講座

  
危険物保安技術協会理事 小 林 恭 一
協力 長岡市長 森   民 夫

4 情報をどう収集し整理するか

 災害発生後しばらくの間、災害対策本部の仕事は、関係機関や現場から入ってくる情報をもとに、応援要請など市町村としての大きな方針の決定と発信、対応する部隊や人の派遣、必要な物資の調達や供給、情報の発信、現場における活動の調整などを行うことです。
 これらの活動がスムーズにいくかどうかは、情報をどうやって収集し、整理するかにかかっています。今回と次回は、情報の収集と整理の方法について考えてみましょう。

[情報の収集]
 災害が発生すると、市民から消火や救助、応急救護などの要請が消防や警察、病院等に入ってきます。橋が落ちた、信号が消えた、ガスの臭いがする、水が出ないなどといった、災害に伴う様々な事態も、対応要請の形で関係機関に入ります。市町村の各部局や出先の出張所等に直接、各種の要請が入る場合もあります。
 各機関では、それらの要請に応える一方で、災害対策本部に重要な情報を報告することが必要です。
 災害対策本部への報告は当たり前のように思えますが、小規模な災害ならともかく、実際に大災害が突発したことを考えると、システマティックに行おうとすると極めて大変だということがわかります。大規模地震などの場合は、停電して常用電源が使えず、電話も輻輳している中ですし、報告する必要がある「重要な情報」の選別も難しいからです。これは、災害が大きくなるほど大変になります。

 ○森市長の経験
 情報の収集の重要性と実際の大変さについて、森市長は以下のような経験を述べてくれました。
 「大地震のような災害は、被害の状況が実に多種多様です。家屋の倒壊、道路の崩壊、火災、がけ崩れ、停電等々あらゆる状況を総合的に把握することは実に困難です。一つの事象にとらわれることなく、飛行機から俯瞰的に眺めるように、全体的な状況把握に努めることが責任者の最大の責務だということを私は実感しました。そのためには、情報の「量」を確保することがまず重要です。断片的な情報では、総合的な把握はできません。
 総合的な状況把握に努める次の段階に必要となることは、情報の「質」の確保です。担当者や住民からの報告が不正確であったり特定の事象に偏ったものであったりすることは、よくあることだと思った方が無難です。私は、中越地震の際、実際に現場を見て判断することの重要性を強く感じました。
 そこで、映像による情報収集手段をできるだけ構築しておくことが重要です。また、災害発生後は、信頼のおける担当者を現地に派遣することを心がけるべきでしょう。さらに、責任者が自ら現地に行って確かめることも必要な場合があることを肝に銘じておくと良いでしょう。「百聞は一見にしかず」とは至言だと思いました。」
 森市長の「飛行機から俯瞰的に眺めるように、全体的な状況把握に努める」という言葉が、トップとして情報の収集と整理を考える場合の全てを表していると言っても良いと思います。私が消防庁の危機管理センターの責任者として、様々な災害のオペレーションを経験して痛切に感じたことも全く同様です。
 どうやって情報を収集して整理すれば状況を俯瞰的に眺めるようになるのか。個人的能力も関係する問題で、極めて難しいことではあるのですが、できるだけそれが出来るような仕組みを構築しておくことが必要だということです。このことについては、次回に予定している「情報の整理」のところで、改めて整理したいと思います。

 ○誰が何をどうやって本部に報告するか
 本部への報告の方法等については、各市町村で地域の実態に応じて様々に工夫していることと思いますが、防災監としては、防災訓練の準備などの機会をとらえて以下のことを確認し、改善の必要があるなら、訓練当日までに整備させておく必要があります。
報告する必要のある機関や組織(特に庁舎外)のリスト
報告手段
報告すべき場合と報告事項の判断基準
 △諒鷙霄蠱覆砲弔い討蓮移動系防災行政無線の無線機の配備や貸与、メンテナンス、使用方法の習熟などが不可欠ですが、「何年か前に無線機を配備したがそれっきり」などということになりがちです。防災監としては、防災訓練などの機会をとらえ、1年に1度は「たがを締め直して」おく必要があります。
 災害の規模によっては、情報の受発信に携帯メールが使える場合もあります。携帯電話は大した災害でなくても輻輳でしばらく使えないと考えておくべきですが、携帯メールは最近発生したM7クラスの直下型地震程度までなら極めて役に立つことが実証されています。
 携帯メールが使える場合に、災害対策本部の情報収集手段としてどう位置づけるかについては、工夫のしどころだと思います。個対個の情報ツールである携帯電話を災害対応の際の情報収集や情報共有にどう使うか、輻輳している状況で写真など送れるのか、受けたメールを庁内LANにどう乗せるか、手軽さから些細な情報まで本部に送られ情報過多になるおそれはないか、など検討しなければならないことはたくさんありますが、携帯電話を使いこなしている若い人たちの意見を集めれば、筆者などの世代では思いもよらない斬新なアイデアが出てくる可能性も高いと思います。
 インターネットやメールはどうでしょうか?
 大規模災害発生時に、情報の発信、受信、整理にコンピューターを使うべきかどうかは、ちょっと前まで悩ましい問題でした。地震などの災害でシステムの一部でも使えなくなれば、為すすべがなくなる可能性があるからです。
 しかし、今や通常業務はすべてパソコンで行い、インターネットや庁内LANで情報をやりとりする時代です。停電など大規模災害時にパソコンのシステムを使うとした場合に懸念される問題点については全て解決しておくことを前提に、コンピューターシステムを使って情報を授受したり整理したりすることを考えておかなければなりません。
 インターネットは、そもそも通信ルートを多重化して非常時に使えるように考案されたという経緯もありますので、災害時には強いようです。回線の破断などの物理的障害が少なければ、発災後しばらくすると情報授受の主要手段として使えるようになると考えておいてよいと思います。ただし、発災直後に使えるかどうかは保証の限りではありません。
 携帯メールにしてもインターネットにしても、当面、発災直後は「使えればラッキー」という位置づけにしておき、防災行政無線での報告を第一の手段として位置づけておく必要があると思います。

 ○災害フェーズに応じた情報収集
 の「報告すべき場合と報告事項の判断基準」について考えてみましょう。
 災害対策本部として欲しい情報は、“災直後、関係部局が災害対応に向けて動き出す前後まで、それ以降、……、など、時間が経過し事態が進展するにつれて変化します。
 災害対策本部が発災直後にしなければならないことは、どんなことが起こっているのか、自分たちの市町村が置かれている現在の状況がどんな状況なのか、できるだけ客観的に把握することです。一方で、本部要員の多くは参集途上にありますし、出先も同じような状況です。消防などの災害対応機関は、発災直後は消火や救助などの要請が殺到して、本部への報告どころではないといった状況に陥ることも考えられます。このような場合には、本部に集まってくる情報が不足することを想定しておかなければなりません。
 この段階(仮に「フェーズ1」とします)では、職員が参集途中で見聞きした情報、屋上から見える情報、偵察班が収集した情報、消防本部の高所カメラから得られる情報、県の防災ヘリの映像などを積極的に集め、また関係機関へも本部から連絡して生の情報を報告してもらい、それらの情報と、テレビなどメディアやインターネット、国、県、他の市町村などから得られる外部からの情報を逐次総合しながら、応援要請が必要な事態なのかなどを、トップが直接考えるしかありません。
 また、必要な情報を庁内で共有するとともに外部に発信していくため、できるだけ早く、文字で整理し、地図に落とすなどの作業を開始させる必要があることは言うまでもありません。
 災害の規模にもよりますが、やがて、関係部局が災害対応に向けて、順次組織的に動き出します。この段階(フェーズ2)になると、発災直後のように本部が生情報を集めていたのでは、オーバーフローして収拾がつかなくなりますので、時機を見て本部から「フェーズ2への切り替え」を指示する必要があります。
 フェーズ2の段階では、各機関ごとに情報を整理して定時に報告させるルーティンを立ち上げるとともに、重要な情報については生のままできるだけ早く本部に上げさせる「特急ルート」を確立しておく必要があります。
 発災後2〜3日経って、関係部局がある程度定常的に動くようになった段階(フェーズ3以降)になると、部局によっては報告内容をさらに整理する必要があるかも知れません。
 「報告すべき場合と報告事項の判断基準」で必要なのは、フェーズ1からフェーズ3までの情報内容や報告様式、本部からフェーズ切り替えの指示が出た場合の対応体制、「特急ルート」で報告すべき事項のメルクマールなどを決めておくことです。また、インターネットやメールが使えるようになってから後の方法などについても決めておくことが必要でしょう。

 ○関係部局からの情報
 普通、災害対策本部には直轄の情報収集班を置き、庁舎外からの情報収集と整理を行うことにしていると思います。情報収集班に入った情報は、当然本部内で報告されます。
 一方で、道路関係など庁内の関係部局では、災害対応に関係して、内部間及び外部との間で情報の受発信が盛んに行われています。これらの情報の中には災害対策本部にとって極めて重要な情報も含まれています。「○○トンネルの入口崩壊。県道○○号線不通。」などの「事故情報」のほか、「国道○号線は全線通行可」、「水道局のポンプ等は被災なし」などの「無事情報」、「○号線は○時頃復旧の見込み」などの「予測情報」などは、災害対策本部が「次の一手」を考える際に極めて重要な情報です。ところが、これらの情報は、意識して仕組みを作っておかないと、当初は本部になかなか上がって来ないことが多いのです。
 特にフェーズ1の段階では、関係部局に対応要請が押し寄せているのに人手が不足し、先着した少数の担当者が死にものぐるいで対応している最中です。この段階で「情報の整理と報告」などと言っても、怒鳴り返されるのがおちです。しかし、災害対策本部では、この段階でこそ、ホットな情報が欲しいのです。
 爆発とか落橋などの単一の大規模事故なら、関係部局の部長室に市長や防災監が陣取ってミニ本部を作った方がよい場合もありますが、大規模地震など広域的で総合的な対応が求められるような災害ではそうもいきません。体育館のような広いスペースに関係部局を全部集めて災害対応を行うなら、全体の様子がわかりますので、何らかの動きが見えた部局に情報を上げるよう指示することなどもできますが、関係部局としての仕事はやりにくくなりますし、ある程度の規模以上の市町村ではスペース的に不可能でしょう。
 結局フェーズ1でもフェーズ2でも、関係部局の責任者が適宜判断し、「この情報は本部に上げろ」と指示してメモを本部に届ける、などというのが精一杯かも知れません。
 防災監としては、とにかく
 「重要情報」を本部に上げるのが関係部局の責任者の重要な仕事の一つであること
 本部にとっての「重要情報」は、フェーズによって変化すること
を徹底し、部局ごとにフェーズに応じた「重要情報」の判断基準や例などを考えさせ、図上訓練などで重要情報を本部に上げる習慣をつけておく必要があります。
 その際、判断基準の策定では「なぜそのような判断基準となったか」を関係者に周知しておくことも必要です。「重要情報」に基づいてどのようなオペレーションを行うこととなるのか、どのような支援活動ができる可能性があるのかを事前にイメージさせておくことにより、実災害ではより的確に情報が伝達され、また、その精度も的確なものとなってくるからです。

 ○要請と報告
 関係機関から本部に上がって来る情報には、「要請」と「報告」の2種類があります。
 「要請」に対しては、本部として何らかのアクションが求められますが、これにいちいち防災監が対応するわけにはいきません。本部の中に要請の種類に応じて対応すべき班を決めておき、各班の班長が責任をもって対応するのが原則です。対応班がすぐに決まらない要請については、総務班などで対応班を決めるようにしておくことも必要です。
 「要請」については、対応班が決まってから防災監に上げるのを原則とし、情報受信伝票などに「報告」と「要請」の別を明記するとともに、要請については「対応する班名」と「対応中」、「対応済み」の別などを記す様式を作っておくとよいと思います。
 防災監から見れば「要請」の大部分を「報告」に変換して上げさせるようにしておくということです。こうしておくことにより、防災監は、各班の班長では対応しきれず市町村としての判断が求められるような事項についてだけ、対応すればよいようになります。
 一方、「報告」は整理して、関係者の間で共有できるようにするとともに、国や県、報道機関などに発信することが必要です。整理して蓄積した情報が「次の一手」を考えるための最も重要な要素であることは言うまでもありません。

 ○情報収集体制の整備は平時に
 情報収集について平時に整理すれば以上のようなことですが、実際に大規模災害を経験した市町村では、流れの中で試行錯誤しながら(場合によっては怒鳴ったりしながら)結局同じことをしているのだと思います。
 防災監としては、災害が発生すると、対応しなければならないことが山のように押し寄せて来ます。情報収集の方法などに頭を使っている暇はありません。情報収集の体制整備などは、訓練の恰好の材料です。平時のうちにこのような情報収集体制を整備して図上訓練等で改善と習熟を図っておき、発災時には(情報収集に頭を使わなくても)自動的に情報が入ってくるようにしておくことが必要だと思います。

※ 前 総務省消防庁国民保護・防災部長



NO.90 (2007.秋号)
巻頭随想 自然と付き合って活きるために
1.能登半島地震・新潟県中越沖地震の概要
2.能登半島地震、新潟県中越沖地震における緊急消防援助隊の活動状況について
3.会議の「見える化」で進めやすかった支援ー県市合同会議
4.簡易型地震被害想定システムとその活用ー2007年能登半島地震、新潟県中越沖地震ー
5.緊急地震速報の提供開始〜地震被害を少しでも軽減するために〜
6.阪神・淡路大震災10年以降のボランティア活動ー中越地震から能登半島地震へー
連載講座 連載第6回 防災監のための危機管理講座
連載講座 連載第2回 情報と防災
地域防災実戦ノウハウ(53)
火災原因調査シリーズ(46)・コンロ火災
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