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連載講座 連載第2回 情報と防災

防衛大学校安全保障・危機管理教育センター長
教 授 太 田 文 雄

インテリジェンス源の種類と利点・欠点

 インテリジェンス源の中で最も多い情報源はいわゆる公開情報(OSINT)です。新聞・雑誌・テレビによるニュースから最近ではインターネットも入ります。文化大革命を予言し、ソ連のチェコ侵入を予測したヴィクター・ゾルサは、決して秘密の情報は読まず、共産圏の公開情報を一日に九時間読んでいたと言われていますから1、秘密でないからといって軽視してはいけません。例えば大本営情報参謀であった堀栄三の情報戦記によれば、米軍来襲の時機を缶詰会社と製薬会社の株価が上昇した直後から判断していました2
 次に電波情報(Signals Intelligence: SIGINT)で、大きく分けると通信情報(Communication Intelligence: COMINT)とレーダー・テレメトリー情報(Electronic Intelligence: ELINTとTelemetry Intelligence: TELINT)に分かれます。前者は文字通り通信を傍受した情報ですが、後者のうちレーダー情報は周波数やパルス幅・繰り返し数などを分析して電磁波発射源を特定、場合によっては搭載母体までを類推することもあります。テレメトリーとは電波を使い、遠く離れたところで、計測結果を時間遅れなしで知るための装置で、特に軍関係ではミサイルが目標に到達する際、どれ位目標から外れたかを測定するために発射される電磁波を解析してミサイルの特性を識別したりするものです。
 SIGINTはまた、収集局としての分類をすると、固定局と移動局とに分けられます。ちなみに、海外に部隊を展開することを常としている国は、米国はもちろんのことヨーロッパ諸国、カナダ、オーストラリアとも、この移動SIGINT局に相当な人的資源を投入しています。
 画像情報(Imagery Intelligence: IMINT)は、偵察衛星や航空機(無人機も含む)などによってもたらされる画像・写真です。しかしながら屋内で行われている活動を察知することはできず、画像情報には限界もあります。リビアが大量破壊兵器の破棄に応じた後に米国の情報専門家で構成される査察団がリビアの大量破壊兵器疑惑施設を訪問した際、かねてから偵察衛星によって注目していた施設を査察しようとすると、リビア側から「そこでは大量破壊兵器は製造していない。作成・貯蔵していたのはこちらの方だ」として全く米側が偵察衛星の撮影ターゲットとしていなかった施設に案内された、ということを聞きました。
 これに、日本ではあまり馴染みのない言葉ですが、計測情報(Measurement and Signature Intelligence: MASINT)といって、大きさ、熱、化学組成、振動、形状といった計測可能な情報があります。この概念は1970年代に米情報コミュニティーで創り出され1986年に承認されました3。耳で聞くSIGINT(電波情報)や目で見るIMINT(画像情報)でも感知できないような生物・化学兵器の製造とか、自然界にはなく核兵器製造過程で出るクリプトン85といった特殊ガスなどを探知計測し、主として大量破壊兵器の製造過程を察知するのに有効です。2006年10月に北朝鮮が核実験を行ったと宣言した直後、米軍が沖縄からWC-135という航空機を派出して大気のサンプルを採集し、放射性物質を微量に検出したことから核実験を実施したとの判断を下すに至りましたが、こうした活動もMASINTの一種です。
 最後に人的情報、いわゆるスパイであるところのHUMINT(Human Intelligence)があります。今後、グローバルな対テロ戦を遂行していく上で、このHUMINTは決定的な役割を果たすといえます。なぜなら対テロ戦にIMINTはそれほど役に立たず、SIGINTも限られた役割しか果たさないからです。
 とかくHUMINTと言いますと、すぐスパイ、ということで否定的なイメージにつながります。しかし2003年に国会で成立した武力攻撃事態対処法案に、捕虜の取扱に関する規定がありますが、捕虜を尋問した際、そこから引き出した情報を取り扱うこともHUMINT活動の一つであるでしょう。

インテリジェンス源の利点・欠点

 次の表は情報源とその利点・欠点を、アメリカで『インテリジェンス』という本を書いたマーク・ローエンサル氏の纏め4を基に一覧表にしたものです。

 この外に音響情報(Acoustic Intelligence-ACINT-)という情報源もあります。例えば潜水艦の「音紋」などはACINTの一種です。「音紋」とは、人間の指紋が人それぞれ違うように、潜水艦の発する音も一隻一隻異なっているので、それを探知・識別に使うことが出来ます。同じ型の潜水艦であっても微妙に異なるのは、プロペラを回す主エンジンは同一規格でも潤滑油ポンプや給水ポンプといった補機までも完全に同じにすることが出来ないからです。
 インテリジェンス源は多様化して持つことに越したことはありません。上記の複数のインテリジェンス源から得られる断片をジグゾー・パズルのようにして背後に描かれている全体像を推測するのが分析作業と言えます。またHUMINT一つにしても複数の国、あるいは機関から入手してダブル・チェック、トリプル・チェックを重ね、どのインテリジェンスが最も真相に近いのかを洞察する眼力もインテリジェンス・オフィサーには必要となります。

これからのインテリジェンス源の趨勢

 前回にも述べましたように、最近は国境を越えた脅威についても留意しなければなりませんが、国家主体の脅威顕在化は比較的予測しやすのに対し、国境を越えた脅威が起こす危機は突発的であり、それ故、的確なインテリジェンスが被害を局限するのに役立ってきます。
 今日のテロに大量破壊兵器は付きものであると覚悟しておかなければなりません。スイス政府編の『民間防衛』には「昼間、人口13万人の都市の上空600メートルにおいて、20キロトンの原爆が爆発したとして、それが急襲されたときには35%しか助からないけれども、警報があった場合には60%が助かり、全員が避難所にいる場合には90%が助かる」というデータがでています5。事前にインテリジェンスを持っているかいないかによって被害者の数が大きく異なってくることを示している好例でしょう。
 インテリジェンス源の中で、電波情報(Signal Intelligence-SIGINT-)は国境を越えた脅威に対して、ある程度の効果を期待することができるでしょうがプロの国際テロ組織であればあるほど無線電話などで交信するようなことはしないでしょう。
 現代のインテリジェンス源として「SIGINTが主流」としている人もいますが、私の見解は多少異なります。SIGINTはモルトケが電信を軍事作戦に利用し始めて以来、主として20世紀には確かに主流だったと言えます。第一次世界大戦の帰趨は米国の参戦で決まりましたが、その直接の切っ掛けを作ったのは英国が傍受し、米国に通報したチンメルマン電報でした。チンメルマンとは当時のドイツ外務大臣の名で「メキシコがドイツ側に参戦したら財政的な援助を行うと共に勝利の暁には米墨戦争によってメキシコが米国に取られたテキサス、ニューメキシコ、アリゾナをメキシコの領土とする」という密約をメキシコに打診した内容でした6。また第二次大戦ではドイツの暗号エニグマの解読に当たっていた英国と、日本の外交暗号パープルを解読した米国とが協力し、ここに今日の英米インテリジェンス協力の基礎があると言えます7。そして冷戦期間中の米ソのSIGINT争奪戦は熾烈を極めました。しかし今日では殆どの国が重要な通信を光ファイバーなど利用して地下や海底に通信網を設置し、無線電信でも強度の高い暗号をかけたりして通常の努力では解読できなくなってきています。これに対し次に述べる画像空間情報は偵察衛星が出来たのが、たかが第二次大戦後であり今後一層発展していくことを考えると21世紀の主流となっていくような気がします。
 画像情報は、今では画像が単に二次元でなく三次元化されて空間情報と呼称されるようにもなりました。そして米国家地理・空間情報局(National Geospatial-Intelligence Agency: NGA)の前長官であるクラッパー退役空軍中将はGEOINTという新しい構想を推進し始めました。GEOINT(GEOspatial INTelligence)とは直訳すれば地理・空間情報ですが、その意味するところは「全ての事象は、ある地理・空間において生起していることから、地理・空間を基盤としてデータ・ベースを構築し、そこに他の情報収集手段から得られた情報を全て融合させ、いつでもどこでもコンピューターから、関連情報を引き出してシミュレーションをして作戦に即役立たせる」という構想です。したがってGEOINTが全ての情報活動の基盤となる、という考え方です8。ちなみにイラクに派遣された自衛官は出発前、クウェートからサマーワまでの移動や、イラク南部にあるタリル空港での着陸を地理・空間画像によってシミュレートしてから行っています。
 しかし偵察衛星による画像情報は国境を越えた脅威に対して限られた役割しか果たすことができません。ただロンドンの同時多発テロでは、地下鉄の駅に多く備え付けられていた無人カメラの画像情報が犯人の割り出しに決定的な役割を果たしていますし、2006年6月のイラクでのザルカウイ殺害作戦では無人偵察機(UAV)によるほぼリアル・タイムの高解像度画像が役に立っており、アフガニスタンの対テロ戦でも活用されている模様です。
 国境を越えた脅威に対して最も威力を発揮するのは、「孫子」の時代から「必ず人に取りて敵の情を知る」9とされる人的情報(Human Intelligence-HUMINT-)でしょう。したがって、米国の『9・11委員会報告書』でも、CIAに対するリコメンデーションの中でヒューミント能力の向上を謳っていますし10、総理の諮問機関である安全保障と防衛力に関する懇談会が2004年10月に公表した報告書の中にも「非国家主体などの、外部からの認知が困難な新しい脅威に対しては、人的情報手段による細やかな対応の重要性が高まる」として人的情報手段の有効活用を早急に進めるべきとしています11

参考文献
1岡崎久彦『情報戦略のすべて』(PHP研究所、2002年2月)51頁。
2堀 栄三『大本営参謀の情報戦記』(文春文庫、1996年5月)346頁。
3Roger Z. George and Robert D. Kline, Intelligence and the National Security Strategist, National Defense University, April 2004, p. 170.
4Mark M Lowenthal, Intelligence, CQ Press, 2003, p. 82.
5スイス政府編、『民間防衛』、原書房、昭和53年8月25日第4刷、74ー75頁。
6ゲルト・ブッフハイト『諜報』(三修社、1972年11月)274頁。
7小谷 賢『イギリスの情報外交』(PHP新書、2004年11月)112頁。
8Lt. Gen. James R. Clapper Jr., USAF (Ret.), “Imagine the Power of “GEOINT””, Pathfinder May-June 2004, National Geospatial-Intelligence Agency, pp. 4-8.
9金谷 治訳注、『孫子』(岩波文庫、1963年)147頁。
10The 9/11 Commission Report, Final Report of the National Commission on Terrorist Attacks Upon the United States, Government Printing Office, August 21, 2004, p. 415.
11安全保障と防衛力に関する懇談会、『「安全保障と防衛力に関する懇談会」報告書ー未来への安全保障・防衛力ビジョンー』、2004年10月、15頁。



NO.90 (2007.秋号)
巻頭随想 自然と付き合って活きるために
1.能登半島地震・新潟県中越沖地震の概要
2.能登半島地震、新潟県中越沖地震における緊急消防援助隊の活動状況について
3.会議の「見える化」で進めやすかった支援ー県市合同会議
4.簡易型地震被害想定システムとその活用ー2007年能登半島地震、新潟県中越沖地震ー
5.緊急地震速報の提供開始〜地震被害を少しでも軽減するために〜
6.阪神・淡路大震災10年以降のボランティア活動ー中越地震から能登半島地震へー
連載講座 連載第6回 防災監のための危機管理講座
連載講座 連載第2回 情報と防災
地域防災実戦ノウハウ(53)
火災原因調査シリーズ(46)・コンロ火災
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