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連載講座 連載第3回 情報と防災

  

防衛大学校安全保障・危機管理教育センター長
教 授 太 田 文 雄

インテリジェンス・サイクル

 その2では、インテリジェンス源の種類とその利点欠点について紹介しました。今回の、その3では、インテリジェンス源から収集してきた情報をどのように加工・解析して要求者であるカスタマーのところに届けるか、というインテリジェンス・サイクルについて紹介したいと思います。
 まずカスタマーは必要な情報は何かを計画し、収集する人達に指示しなければなりません。これが情報要求です。その要求に基づいて収集活動が始まります。この収集段階において、前回紹介した色々な情報源に収集の指令が下ります。次に収集した情報を処理し分析(解析)結果を評価する必要があります。最後に出来上がったプロダクトをカスタマーに配布して一連のサイクルが終わります。したがって、まず情報業務に携わる人達はカスタマーの情報要求は何かについて研ぎ澄まされたアンテナを張っておく必要があると共に、せっかく出来上がったプロダクトを配布してカスタマーに確達させなければ何の意味もないことになります。
 カスタマーは配布されたプロダクトを認識して、新たな要求を出すことがあります。そして、その新たな要求に対するプロダクトから、さらなる要求を出してくることもあるでしょう。
 そして分析の過程では、先に紹介した各ソースから得られた全てのインテリジェンスを融合(Fusion)させる必要が生じます。
 例を2006年10月に行われた北朝鮮の核実験に取ってみて考えてみたいと思います。北朝鮮は10月9日朝鮮中央放送を通じて「地下核実験に成功した」と報道しました。これはOSINT(公開情報)になります。これに基づいてカスタマーは「本当に地下核実験をし、そして成功したのか?」といった要求をインテリジェンス・サイドに出すことになります。
今回決め手となったのは北朝鮮周辺に配置してある地震計の振れと、嘉手納の米軍基地から飛び立ったWC-135の大気サンプリングを分析した結果ですが、これはMASINT(計測情報)になります。当然地震計から推定された地下核実験現場を偵察衛星が写真撮影をし、同山岳地帯の形状に変化がないか、また赤外線探知衛星で熱源を感知しているでしょうが、これはIMINT(画像情報)になります。またSIGINT(電波情報)収集部門は、核実験を行った現地と平壌間の無線通信を傍受して何らかの兆候を掴んでいるかも知れません。北朝鮮のような国家の場合HUMINT(人的情報)源を忍び込ませるということは至難の業でしょうが、最近北朝鮮から脱北してきた者で政府内部に近かった人物から、核実験の実施について何らかのヒントが得られるという可能性はゼロとは言えません。
 こうしたインテリジェンス源をジグゾー・パズルのように貼り合わせ、それから何が言えるのかを解析していきます。その結果、仮に「北朝鮮は核実験を行ったが、部分的な成功に留まっている」というインテリジェンスが引き出されたとしましょう。それを要求元のカスタマーに配布すると、カスタマーからは「判ったが、それなら引き続き北朝鮮はさらなる核実験を行う可能性はあるのか?」というさらなる要求が出るかもしれません。その要求によって、再びIMINT、SIGINT、HUMINT、MASINT、OSINT部門に関連情報の収集が下達されることになり、再度サイクルが廻り始めることになります。
 しかしながら、最近の情報業務の趨勢としては、この要求、収集、処理、解析、配布というサイクル・モデルは1980年代のものであり、今日ではむしろ情報量に富む生データを情報に携わる人達皆が、それぞれの立場から観察・判断することが大切になっています。例えば、映像は極めて情報量に富んだメディアですが、これまで映像から敵や敵の動きが抽出され、文章化されると残りの情報を内包するデータは捨てられていました。しかし、近年ではナビゲーションや地形慣熟の観点から映像情報に対する情報要求が増大しています。また撮影時には敵が存在していなかったけれども、敵が潜伏している可能性のある建物を攻撃目標のデータ・ベースに加えるという所要も出てきます。こうした情報要求は同時並行的に生起するもので、収集・処理・解析・配布といった直列のモデルでは対応できません。

情報時代のサイクルは新しい発想が必要

 このように要求→収集→分析→評価→配布(活用)という直列式のサイクルは既に産業時代の古い概念で、情報時代の新しい概念は次の図のようなものになっている、ということを、私は2005年9月に現職の米国防情報局(Defense Intelligence Agency -DIA-)長官であるジャコビー海軍中将との会話で合意に達しました。二人だけで夕食をともにした時、彼が例として挙げたのが「イラクの大量破壊兵器について調査せよ、という情報要求は最初からバイアスがかかっているではないか」であり、米政府内で不確実な大量破壊兵器の情報に基づいてイラク戦争を開始してしまったことに対し、彼が相当苦い思いをしたことが窺われます。イラク戦争後、イラクに大量破壊兵器が発見されなかったことをもって、インテリジェンスの失敗(Failure)とされ、インテリジェンス組織の改革等が行われていますが、実はサダム・フセインを追い出すために政策部門(Policy Side)がインテリジェンスをねじ曲げた、と言えないこともありません。2005年1月5日のサンデー・タイムズには「ブッシュ大統領は、国際テロ組織との関わりや大量破壊兵器によって行動を正当化させることにより、軍事力を使用してサダム・フセインを追い出したかった。インテリジェンスや事実は、その政策の周りに固められた。」と書かれています1
 ついでに申し上げれば、最近のもう一つの米インテリジェンスの失敗と言われている9・11を事前に予測できなかったことについても、9・11の約一ヶ月前である8月6日の大統領日例報告で「ビン・ラディンは米国における攻撃を決断した」とブッシュ大統領は報告を受けていますので2、そのインテリジェンスに対する適切な対応をとらなかった政策部門の責任だと言えないこともありません。
 話を元に戻しますと、ジャコベ海軍中将はこうも言っていました。「電波情報を聞いている語学要員は、情報要求がなくても立派なプロダクトを作成するではないか」と。私も実務経験を通じて言えますことは、この忙しく大量の情報が氾濫する世の中で、要求が生じてから収集を開始するような悠長なことで現代のインテリジェンス・サイクルは間に合うのか、と思います。
 例えば、2004年12月末にインド洋大津波が発生してから、直ちに復興支援部隊が派遣されることになりましたが、その派遣部隊から、現地の治安に関する情報要求を受けてから情報収集を開始していたのでは、派遣部隊が出発するまでに間に合いません。こうした情報は常日頃からデータ・ベースを構築しておかなければならないのです。
 この新しいモデルに関して、政策決定者だけをカスタマーとしている情報組織では「分析官の知らないところで、カスタマーがデータ・ベースに勝手に手を突っ込まれたら叶わない」と考えるかも知れません。確かに大統領や総理大臣に対して情報提供を行っている中央情報組織であるとか外務省の情報組織については、そういったことが言えるかも知れません。しかし、第一線のオペレーターや将来の兵器開発者をもカスタマーとしている国防情報組織では、データ・ベースをカスタマーの好きなときにアクセスできるようにしておく必要があるのです。
 消防という組織でも、この点は同じではないでしょうか。例えば、1993年7月にオウム真理教が散布した亀戸炭疽菌事件、同じくオウム真理教が起こした1994年6月の松本サリン事件と1995年3月の地下鉄サリン事件、そして2001年の米国9・11事件等の教訓をデータ・ベースに入れておき、同じような事案が生起した時には出動する消防隊員は、当時の教訓にアクセスできるようにしておかなければならないでしょう。また将来の防護服や検知機器といった装備を開発する部署にいる人達も、過去のデータ・ベースを基に設計に携わらなければならないと思います。
 新しいサイクル・モデルでは、これまで情報の分析に従事していた人達は、ともすると収集してくる情報を待つ体質がありましたが、積極的にカスタマーのニーズは何か、を求めていき、また収集者に対しても「この部分の断片情報があればジグゾー・パズルの大きな絵が見えてくるのだが…」といったようなやり取りをして積極的に情報提供を求めていく必要があるでしょう。収集者も、自分が収集したインテリジェンスを多くの人がアクセスできるデータ・ベースに入れたがらない体質がありますので、いずれにしても新しいサイクル・モデルではインテリジェンス関係者の体質(カルチャー)を変革していく必要に迫られています。

情報時代の新しいインテイジェンス・サイクル

 2006年9月に再びジャコベと会った時、彼は「このモデルにおいて各カスタマー、収集者、分析者はデータを共有(Share)するというよりも、むしろアクセスするという感覚の方が大切である」とも語っていました。

問題はテロ等の原因究明に相当な時間が掛かること

 上記のようなインテリジェンス・サイクルを必要とする背景には、テロのような事件に際しては、その原因究明に相当な時間を要するのに対し防災担当者としては一刻も早い対応が求められるという要因が見逃せません。
 2005年のイギリス同時多発テロは、発生当初「どうも地下鉄で爆弾が複数爆発したらしい」という情報しかなく、これがテロだと判明するまでには相当の時間が費やされています。しかもアル・カーイダが関与した同時多発テロであることが判るためには、さらに数週間の時間を費やしました。ロンドンでは最初のテロ後、約二週間にして第二のテロが生起しましたが、最初のテロの背景を迅速に掌握して手を打つことにより、第二、第三の惨事にエスカレーションすることが防げます。
 日本の地下鉄サリン事件に関しても、当初は「原因不明の意識不明者が地下鉄で多数発生した」程度のことしか判りませんでした。実際には3月20日0816に東京消防庁から救急センターに事件の連絡が入り、状況をテレビで知りかつ松本サリン事件を手がけた信州大学の病院長から患者を収容している聖路加病院に「サリンだ」という連絡が0930に入って1040にサリンの治療法についてFAXが入りました。これが上記インテリジェンス・サイクルのデータ・ベースに相当します。
 1993年6月に東京亀戸でオウム真理教が炭疽菌を空中に散布しましたが、バイオ・テロであると判明したのは、それよりずっと後になってからでした。また1984年に米国オレゴン州でもカルト集団が近くのレストランのサラダ・バーにサルモネラ菌を混入し、751人が死亡するといった事案がありましたが、これもバイオ・テロであると判明したのは約1年後でした。さらに2001年に米国で発生した炭疽菌を手紙に入れる事件についても、9月19日に犯行が行われ、10月5日に最初の死亡者が出ましたが、これがバイオ・テロであると判明したのは10月中旬でした。したがって将来仮に生物兵器が使用されたとしても、当初は「ある地域で原因不明の病人がバタバタと倒れている」ということ位しか判らないでしょう。原因の早期究明が、多くの人を救う第一歩であると思われます。
 2007年3月には地下鉄サリン事件12周年として、新幹線にサリンがまかれたという想定の元に訓練が行われ、地方自治体でも同種の訓練が行われていますが、問題は何を、どの団体によってまかれたのかが判るまでには相当な時間が掛かることを考慮しなければなりません。

〔了〕

1 IRAQ: PRIME MINISTER’S MEETING, 23 JULY, Sunday Times, January 5, 2005 “Bush wanted to remove Saddam, through military action, justified by the conjunction of terrorism and WMD. But the intelligence and facts were fixed around the policy.”
2 The 9/11 Commission Report, W. W. Norton & Company, July 2004, p.261


NO.91 (2008.冬号)
巻頭随想 地震火災への備え・・悲観的に想定し、楽観的に防備しよう
1.「新潟県中越沖地震」柏崎刈羽原発火災等の教訓を踏まえて
2.会田柏崎市長が語る中越沖地震ーその苦労や反省点など消防科学総合センター理事長がインタビューー(1)
2.会田柏崎市長が語る中越沖地震ーその苦労や反省点など消防科学総合センター理事長がインタビューー(2)
3.新潟県中越地震との比較からみた新潟県中越沖地震の被害と災害対応について
4.阪神・淡路大震災10年以降の災害ボランティア活動2ー中越地震から中越沖地震へー
5.平成19年新潟県中越沖地震支援活動及び現地調査について
6.連続した二つの大地震における市町村災害対策本部ー本部員会議と本部室に関する教訓ー
7.災害時における「標準型市町村防災GIS」の実用可能性について〜2007年能登半島地震での輪島市をケーススタディとして〜
連載講座 連載第7回 防災監のための危機管理講座
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地域防災実戦ノウハウ(54)
火災原因調査シリーズ(47)・地下タンク火災
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