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連載講座 連載第8回 情報と防災

防衛大学校安全保障・危機管理教育センター長
  教 授 太 田 文 雄

 2008年12月3日に、米議会の超党派による「大量破壊兵器・テロ防止に関する委員会」が、今後5年以内に世界のどこかで、核兵器あるいは生物兵器を使ったテロが起きる可能性があると警告する報告書を出しました1。これまで過去に生起した事象を兆候として察知し、将来起こりうる災害を予測することの重要性について述べてきましたが、国際テロが大量破壊兵器と結びつく兆候は最近相当現れています。

大量破壊兵器が結びついたテロは将来確実に起こる

 1990年代のオウム真理教による生物・化学兵器テロについては周知の事実ですが、2001年の9・11テロ後、米国では手紙に炭疽菌を入れて配布されることによって5名が死亡しています。翌2002年2月にイタリアの在ローマ米国大使館の水道施設にフェロシアン化カリという毒を混入しようとしていたモロッコ人グループが逮捕されました。同年英国、フランスにおいてテロ容疑で逮捕されたイスラム過激派グループが猛毒リシンや毒物ガス等生物・化学兵器関連物質を所持していました。米国では2003年3月に無政府主義者が化学兵器所有容疑で逮捕され、10月にはサウスカロライナ州の郵便局で、11月には議会で猛毒のリシンが発見されました2。2004年2月には米議会内の共和党上院内総務の郵便室でもリシンが発見されました。同年4月にはヨルダンで治安当局者が有毒ガスを混入した爆弾テロ計画を未然に摘発しています。さらに8月には英国で放射性物質、毒ガス、化学物質等を使用した爆弾テロ計画容疑で8名が逮捕されています。2008年2月にはラスベガスのホテルでリシンが発見されました。
 国際テロ組織アル・カーイダが大量破壊兵器を入手してテロを引き起こそうとしている証拠も多く出てきています。1998年アル・カーイダのオサマ・ビン・ラディンは「イスラム防衛のために大量破壊兵器を手に入れることは宗教的義務」と宣言していますし、副官のアイマン・アル・ザワヒリは2001年11月に米軍の空爆で死亡したムハマド・アテフ等にアル・カーイダによる生物・化学兵器テロ計画「サバディ計画」の進展を指示しており、さらに側近であったジャマール・アファマド・ファドルは米司法当局に対し濃縮ウランの購入に関与したことを認めています。アフガニスタン戦争後に押収したアル・カーイダの内部資料に生物・化学兵器の製造方法が記載されていることが判りました。こうしたことから、9・11後の教訓を議会に報告した「9・11委員会報告書」には「アル・カーイダは少なくとも10年間、核兵器を取得あるいは作ろうと試みてきた。」と記述されています3
 2002から2004年にかけて英国等欧州諸国でアル・カーイダ関連グループによると思われるリシンや毒ガス等の生物・化学兵器関連物質を使用したテロ計画が相次いで摘発されました。2002年5月米国で逮捕されたアル・カーイダ関係者の米国人が放射性物質を散逸するダーティーボム(汚い爆弾)を用いたテロ計画を自供しています。
 2003年には東南アジアのイスラム過激派組織ジャマ・イスラミア(JI)の生物・化学兵器マニュアルが発見され、そこには「30ミリの(生物・化学)エイジェントで6000万人の人を殺すことができる。神の意志で!」と記されていました。
 2004年1月にはサウジアララビアに対する生物兵器テロを呼びかける声明がアル・カーイダ関係者から出されています。そして同年7月に公表された『9・11委員会報告書』にはアル・カーイダが9・11テロの実行前にシアン化物等を使用した化学テロを訓練・実行予定であったことが記されています。2006年5月にはアル・カーイダが2003年にニューヨークの地下鉄で青酸ガステロを計画したけれども、何らかの事情で計画の実行を中止した旨の報道がありました4。こうしてみますと国際テロ組織が大量破壊兵器を使用した地獄図のような状況の蓋然性は、まさに“Not if, when”即ち「もし起こったらではなく起きることは明白で、それが何時起きるかが問題なのだ」ということがお分かりいただけることと思います。

いつかは船がテロの手段に使われる日がくる

 テロの手段として航空機が使われた例としては9・11を始めとして2004年10月のロシア航空機同時テロ、そして未遂に終わった2006年8月の英航空機連続テロがあり、陸上交通が使われた例としては2004年2月のモスクワ地下鉄、2004年3月のマドリード列車連続爆破、2005年7月のロンドン地下鉄・バス同時爆破、そしてイラクやアフガニスタンでは毎日のように発生している車両テロがあります。
 しかし船舶をテロの手段として使用した例はあまり聞きません。それでも2000年以降だけを取ってみても、イエメンのアデン港を舞台としてアデン・アビヤン・イスラム軍(Aden-Abyan Islamic Army)が小型艇に爆弾を積載して船腹に突っ込んだ2000年10月の米駆逐艦コール事件、2001年10月のスリランカ沖航行中の内航タンカー爆破、2002年10月の仏タンカー、ランブール(Limburg)号事件、2003年3月にスマトラ沖でインドネシアのケミカル・タンカーDewi Madrimがマシンガンなどで武装した集団に乗っ取られ1時間ほど操舵された事件、そして2004年2月にはフィリピンでアブ・サヤフ・グループがスーパーフェリー14を爆破して死者・行方不明あわせて116人、負傷者数百人に上る大惨事を出し、2005年8月には同じフィリッピンでフェリー「ドナ・ラマーナ」の爆破事件が起きています。これに加え、遠隔攻撃として2005年8月にヨルダンのアカバ湾に停泊中の米海軍艦艇2隻(KearsargeとAshland)がカチューシャ・ロケット砲で攻撃され、2006年7月にはイスラエルの艦船がヒズボラの地対艦ミサイル攻撃によって被弾しています。2008年末にインドのムンバイで起こった同時テロでは輸送路に海上が使用された模様です。
 特に注目すべきはランブール号事件で、テロ実行グループの第1組は各種爆弾物で満杯となった船舶を運営する自殺爆弾組、第2組は底引網漁船と中間規模の船を利用して近くの攻撃用の船や巡航定期船を爆破させる任務、第3組は輸送会社から奪取した小型飛行機に爆弾を積む任務、第4組は水中爆破組といったように極めて組織的になされていました5。元来、金品を目当てとする海賊と、政治的な目的を持つ海上テロとは明確な区分がなされて然るべきですが、最近では両者の判別が付きにくくなり、両者の交流が指摘されています。例えばインドネシアのスマトラ島北部を拠点としている自由アチェ開放運動(GAM)は主としてマレーシア西方海域で活動していましたが、2003年以降に海賊と結びついて行動範囲を拡大し、マラッカ海峡南部にまで進出するようになりました。そのGAMが2003年3月、上記のようにマラッカ海峡でケミカル・タンカーを奪って1時間近く操船した後、解放したのですが、この事件によりGAMが海賊と結託してタンカーをハイジャックする可能性が指摘されています。またモロ・イスラム解放戦線(MILF)は、元々独立を標榜しつつスル海で海賊を生業としていました。従って海賊とグローバルなテロが結託する海上テロを警戒しなければなりませんし、海賊対策は海上テロ対策に、逆に海上テロ対策は海賊対策にもなるのです6
 未遂事案としては、駆逐艦コール爆破事件に先立つ2000年1月に米艦サリバンスが同じイエメンで狙われましたが、積載量を超えた攻撃用ボートが沈没しています。また2000年と2001年にはマレーシアで米艦船を狙うイスラム過激派Kumpulan Mujahidin Malaysiaによる計画が阻止されました。2001年12月にはシンガポール内務省が米船舶を攻撃するジャマ・イスラミア(JI)の計画を防止し、2002年6月にはジブラルタル海峡を通過する米、英のタンカーをスピード・ボートで攻撃する計画を立てたグループがモロッコ当局に逮捕されています7。そして9・11の首謀者としてパキスタンで拘束されたアル・カーイダの作戦部長ハリド・シェイク・ムハンマドが、2003年3月に、ニューヨークに入港するコンテナ船を持つ会社に対し、コンテナ使用と引き換えに20万ドルを投資する取引を持ちかけており、アル・カーイダがコンテナを用いた生物・化学兵器による攻撃、あるいは大量破壊兵器の米国への持ち込みを企図していたと考えられています。2005年8月にトルコで逮捕されたザルカウイ派のルアイ・サッカは、トルコのアンタルヤでNATOの海軍艦艇を爆破する計画であったことを自供しています8
 また、LNGタンカーを乗っ取られてテロに使用されるというケースは理論的にあり得ます。2006年に日本で公開された米映画「シリアナ」にはテロリストがミサイルの弾頭を漁船に積み込み、LNG船に突っ込んで自爆する場面が出てきます。現に米エネルギー省の国立サンディア試験場(Sandia National Laboratories)は「LNGが大規模に流失して発火した場合半径500m以内の住民や施設は高熱で大被害を受ける。半径1,600mまで中程度の被害が及ぶ」とし、テロリストによるLNGタンカー攻撃には衝突、爆発物の使用、外部からの攻撃、ハイジャックという四つの方法が考えられると警告を鳴らしています9

日本の船も被害に遭っている

 さらに石油を積み出す中東の港湾における海上テロも頻繁に生起しています。現実に日本のタンカーが危なく自爆テロの犠牲になるケースは過去にありました。英ペルシャ湾派遣艦ノーフォークの作戦日記によれば、2004年4月24日にダウ帆船と高速ボートによるバスラ沖の石油積出ターミナルへの海上テロ攻撃が生起し、米海軍兵2名と米沿岸警備隊員1名が死亡しています10。この時自爆テロのすぐ近くには日本郵船の超大型タンカー「高鈴」(28万トン)が係留中であり、タンカーの数百メートル手前で高速ボートが大爆発を起こしていたのです。そして数日後、国際テロ組織アル・カーイダと関係が深いとされるヨルダン人テロリストのザルカウイ容疑者の犯行声明が出ました11
 過激派のオン・ライン、アル・アンサール・マガジンにはタンカー爆破の利点として「アメリカ経済は原油の価格が上がることは何であっても耐えられないであろうことはよく知られている」として世界経済を遮断するのにテロリストにとって最も効果的な方法の一つが原油供給を攻撃することであるとしているのです12。現に2006年にはサウジ・アラビアが、その約60%の石油を通過させている巨大なアブクアイク石油処理施設がアル・カーイダによって襲撃されました13
 またアル・カーイダは、海上テロを行うための「アル・カーイダ海軍マニュアル」を所有していると言われており、この中で次のような項目について記述している模様です14
船舶の最適攻撃場所
リンペット・マイン(吸着機雷)の使用法
高速艇からのロケット砲発射法
LNGタンカーを浮かぶ爆弾に変える方法
爆薬を搭載した高速艇の使用法
燃料・ガス貯蔵施設または船舶の傍でトロール船等を爆破させる方法
自爆攻撃用のスクーターの使用法

 まさに、海上テロも“Not if, when”(もし起こったら、ではなく起きることは明白で、それが何時起きるかが問題なのだ)と言えます。そして、海上輸送体制はどこかの国に不備があると世界中に影響が出ますので、関係諸国と一緒になって対応していく必要があるでしょう。

1産経新聞、「米議会報告書「5年内に核・生物テロ」パキスタン“監視”訴え」平成20年12月5日。
2Richard Benedetto, “Secret Service investigated ricin quietly”, USA Today, February 4, 2004.
3The 9/11 Commission Report, Final Report of the National Commission on Terrorist Attacks Upon the United States, Government Printing Office, August 21, 2004, p. 380.
4NBCR防護・危機管理専門家共著『NBCRテロと市民の安全について』(NBCR対策推進機構、平成18年8月)28〜30頁。
5Jeffrey D. Simon, The Implications of the Achille Lauro Hijacking for the Maritime Community, in Violence at Sea ed by, Brian A. H. Parritt, 1986, pp. 18-19.
6秋元一峰「ユーラシアブルーベルトのシーレーン防衛」(国際安全保障 第35巻第1号、2007年6月)31頁。
7宮坂直史、「海上・港湾域におけるテロリズムとテロ対策」『安全保障学のフロンティアー21世紀の国際関係と公共政策ー』(明石書店、平成19年3月)、89-90頁。
8秋元一峰「ユーラシアブルーベルトのシーレーン防衛」(国際安全保障 第35巻第1号、2007年6月)31〜32頁。
9山崎 真、「海上テロの脅威」、平成18年10月の日印海洋安全保障ダイアローグにおける発表ペーパー、7頁。
10寺下清道、「イギリス海軍中東派遣部隊の現状(2)」『波涛』179号(2005年7月)13頁。
11読売新聞政治部『検証国家戦略なき日本』(新潮社、2006年11月)91〜92頁。
12Daniel Benjamin and Steven Simon, The Next Attack: The Globalization of Jihad, London: Hodder and Stoughton, 2005, p. 76.
13Alex Schmidt, “Terrorism and Energy Security,” in Ellis, ed., Terrorism: What’s Coming, pp. 28-36.
14「海上テロの脅威」、4頁。



NO.96 (2009.春号)
巻頭随想 地方財政の逼迫とこれからの「協助」
1.平成20年の風水害と今後の課題
2.平成20年の局地的な大雨や集中豪雨による被害の軽減への対応について
3.平成20年風水害の避難対応にみるわが国の防災の課題
4.平成20年大雨の特徴
5.平成20年8月末豪雨から考えること
6.平成20年8月末豪雨災害における災害時要援護者の課題
ウツタイン様式に基づく院外心肺機能停止症例の搬送記録における欠損データの分析及び対処方法について
消防防災GISにおける雨量情報の活用について
第13回防災まちづくり大賞について
三鷹消防署における住宅用火災警報器設置促進方策について
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