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連載講座 連載第9回 情報と防災

防衛大学校安全保障・危機管理教育センター長
  教 授 太 田 文 雄

 2009年4月に北朝鮮はテポドン2号の改良型と見られる弾道ミサイルを発射し、5月には核実験を行いました。さらに6月に国連安保理で採択された決議を受け、現時点の情報では東岸の二カ所と西岸で新たなミサイル発射の準備と受け取られる動きを見せている模様です。第7回の「情報と防災」記事で北朝鮮西岸からの弾道ミサイル発射の可能性を図示しましたが、どうやらその予測は的中しそうです。
 また4月下旬からメキシコを震源地とした新型インフルエンザの流行が確認されました。今回の北朝鮮の弾道ミサイル発射と新型インフルエンザの流行に関しては「情報と防災」の観点から多くの教訓があったように思われますので、今回は、これらについて考察してみたいと思います。

発射前日の誤情報

 北朝鮮が「間もなく衛星を打ち上げる」と発表した4月4日の午前10時頃から数時間後の1215頃「飛翔隊発射」のEm-Netが政府から発信されました。この情報は、5分後に誤情報と訂正されましたが、その原因は報道に寄れば千葉県飯岡にある航空自衛隊のFPS-5レーダーが日本海で飛翔体を探知、それを受けた航空総隊の担当者が実際にはなかった米赤外線探知衛星からも探知情報があったとして防衛省中央指揮所や官邸に報告したことが原因でした。
 重要な判断・行動を伴う情報であればあるほど、他の情報源とダブル・チェック、トリプル・チェックをして正確を期さなければなりません。この作業を情報の世界ではFusion(融合)と言います。この場合であれば、米偵察衛星からの情報はもちろんのこと、飯岡以外の地域に配備されている他のFPS-5レーダーや海上自衛隊が洋上に展開しているイージス艦のSPY-1レーダー情報、青森県車力に配備されたXバンド・レーダーといった複数の情報源からの情報の融合をはかって「間違いない」と確認してから、然るべきところに情報配布を行うべきでした。
 しかし、このような誤情報の報告は、今回のように「間もなく発射する」と北朝鮮が報道した直後の期待値が高まっているタイミングに、それらしき兆候を察知して、「まさに、これだ!」と飛びつくことは、しばしば発生する事象ではあります。
 例えば私が情報本部長をしていた2004年9月のことですが、「北朝鮮が10月に核実験を実施するとの観測が米政官界で広まっている」との報道1があった中で、韓国がキノコ雲を観測して「爆発は同年4月に生起した龍川における列車事故の3倍規模」とか、「8日の深夜と9日の早朝に地震計に感知される揺れがあった」といった情報と共に、「それ!」とばかり大騒ぎになりましたが、実際には当時発生していた積乱雲を核実験のキノコ雲と誤認したことに起因する「大山鳴動して鼠一匹」的結果でした。
 また数年前に某政党が、たった一つのメールを以てあることを断定し、党首が辞任するような騒ぎになってしまいましたが、これなどもダブル・チェックやトリプル・チェックが必要であった例と言えるかも知れません。
 さらに北朝鮮の不審船事件の直後には、各地から多くの「工作船らしきものを発見した」という通報があり、そのほとんどが誤報と判明していることも、期待値の高まりが誤報を生み出しやすい一例と言えましょう。そうした意味から、今回の誤報事件は「想定外」と言うよりは事前の良き訓練と認識すべきかもしれません。
 今回、気になるのは4日の1048「陸上幕僚監部指揮システムから全国に150箇所、約900の端末に「発射」のメールが届き、もちろん秋田県に駐在していた陸上自衛官にも未確認情報として届いた」という報道です。陸上幕僚監部の担当者は「そのようなメールは発信していない」としていますが、これが報道のように単なるコンピューターの誤作動なのか、あるいは何者かが当該ネットワークに侵入して意図的に誤情報を流したのかについては、しっかりした原因究明がなされるべきだと思います。

有事に電子メールは頼れない

 今回政府から各地方公共団体にEm-Netと呼ばれる電子メールで発射の情報が届けられましたが、それは発射実験であったので有効でしたが、実戦ではほとんど頼れないと認識すべきでしょう。その理由は、戦闘状態になったら北朝鮮のサイバー戦部隊が、日本の重要ネットにサイバー攻撃をかける可能性が極めて高い、というのが第一であり、第二には核爆発時に発生する電磁パルスによって電子メールは使用不能となるからです。
 我が国周辺諸国である北朝鮮や中国、それにロシアがどのようなサイバー攻撃努力を行ってきているかについては、既に第7回の記事で紹介しましたので多くを繰り返しませんが、現に2006年7月の北朝鮮弾道ミサイル発射時にも、北朝鮮の121部隊と呼ばれるサイバー部隊が韓国と米国防総省に侵入してサイバー攻撃を掛けた、と米国防総省当局者がAP通信とのインタヴューで概要を語っていますし、2009年7月には110号研究所と呼ばれるハッカー部隊が韓国や米国にサイバー攻撃を行なったと報ぜられました。
 また2009年3月に出された2009年版『中国の軍事力』では、中国の対宇宙・サイバー戦計画を鎚鉾つちほこ(敵の鎧を打ち砕くのに用いる武器)刺客(Assassin Mace)プログラムと呼称して警戒心を高めており2、2008年に生起した具体例として4月にインドの外務省コンピューター・ネットワークが中国発の侵入の犠牲となったこと、5月にベルギー政府が中国ハッカーに複数回ターゲットにされたこと、同月米国商務大臣が訪中時米政府ラップトップ・コンピューターを秘密裏にコピーされたことなどを挙げています3
 また2009年4月の新聞記事には「オーストラリアのラッド首相が2008年9月に訪中した際、中国側が首相のパソコンや携帯電話に不正侵入を試みた。」という記事も掲載されています4
 我が国でも、これまでDOS (Denial Of Service)攻撃、即ちサービス停止攻撃は2004年8月、2005年4月、2006年8月に掛けられていますし、2000年1月に日本政府の官公庁ホーム・ページが改竄されたのも中国が発信源であると専門家は見ています。
 なお、2009年1月号のフォーリン・アフェアーズにゲーツ国防長官が次の内容の論文を寄稿しています5。『在来型の脅威である国家脅威も残存している。ロシアはグルジアに侵攻し、中国は軍の近代化に余念がなく、またイランや北朝鮮には核開発の問題がある。こうした国々は米国に対し直接的に通常戦力で対抗すべきではない。中期的には米国の優位は維持でき、リスクはあるものの対処は可能である。中国やイラン、北朝鮮は米国との正面衝突は避け、米国の脆弱なところをターゲットにしている。それが、サイバー戦や対衛星システムに現れている。現在、戦闘は明確にカテゴリー化できず、敵の攻撃はより混合(Hybrid)かつ複雑(Complex)になっている。例えば、ロシア・グルジア紛争は「通常戦」と「サイバー攻撃・情報戦」である』と。
 ちなみに今回の北朝鮮の弾道ミサイル発射に際して、ゲーツ国防長官が「迎撃しない」と発言したとメディアが報じていましたが、ゲーツ長官は記者のぶら下がりで「衛星であれば…」との前提条件において発言したものをメディアがミス・クオートしたのだということを、後日メザーブ在日政務公使から聞きました。ここでも「正確な情報が伝わらない事による影響は大きい」ということを感じます。

弾道ミサイルの破片落下

 今回の発射に際して、日本領土・領海内に飛翔体の落下物はなかった模様ですが、私が米国の防衛駐在官をしていた1998年のテポドン1号発射に際してはシュラウドと呼ばれる飛翔体の一部が洋上に落下していますので、落下物が日本の領土・領海に落下する可能性はありました。
 弾頭部に核兵器が搭載されている場合は論外として、化学兵器の場合には風下に居れば直接被害を受けます。生物兵器のケースは、弾頭部が大気圏に再突入する時点で高熱を発しますので、ほとんどが死に絶えてしまう筈ですが、炭疽菌だけは芽包状態ですので熱に強く生き延びる可能背があります。プルトニウム原爆の場合は、爆発しなくても人体に有毒、かつ発癌性の物質ですので相当長期間、人が住めなくなる恐れがあります。
 さらに燃料そのものについても有毒物質ヒドラジンを使用している可能性が高く、この物質皮膚への接触ともに腐食をもたらし、また中毒症状をおこすのでマスクとシリコン製手袋なしで迂闊に近づくことは禁物です。下手をすると遺伝子に影響を与えることから、奇形児が生まれてくる可能性もあります。
 なお湾岸戦争の時、イスラエルはイラクが発射したスカッド・ミサイルに対し、ペトリオット・ミサイルで迎撃しようとして発射しましたが、スカッドの破片よりもペトリオット・ミサイルの残骸による被害の方が大きかったようですので、味方の撃ったミサイルの残骸処理にも意を用いなければなりません。
 消防庁は、こうした危機時には患者の搬送に従事しなければなりませんが、搬送時の被害防止対策を徹底することは、4月にメキシコを震源地として発生した新型インフルエンザ患者対策と同様です。そこで次に新型インフルエンザに関して考察してみたいと思います。

新型インフルエンザと情報の透明性

 新型インフルエンザのような災害に対処するには情報の透明性(Transparency)が決定的に重要であると言われています6。この点一党独裁の国家は、情報の開示をためらいますので対応が後手に回り、取り返しのつかない事態になって、一般大衆の怒りを買うことになることは旧ソ連のチェルノブイリ原発事故からも明らかです。旧ソ連では、事故以後始まったペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)によって共産党独裁国家が崩壊し始めました。
 中国は2003年4月に中国各地で新型肺炎(SARS)感染者が発見され、7月までに約5300人が感染、そのうち348人が死亡しましたが、実際には2002年11月に広東省で既に最初の感染者が確認されていたことが後から判明しました。中国政府は自国のイメージ低下を防ぐため、これを世界保健機関(WHO)に報告せず報道を規制、その後も感染者数を少なめに発表し、国際社会に被害の実情を隠し続けました。しかし、ひとたび隠しおうせなくなると、今度は「中国共産党指導部が積極的にSARSの予防・対処を行っているのだ」という映像を流して、国民の非難をかわす様な偽装工作を行いました。今回、上海経由で香港を訪れたメキシキ人が新型インフルエンザに感染していることが確認されると、中国政府は上海〜メキシコ間の直行便を止め、症状がないメキシコ人をも隔離するといった過剰反応を示しました。
 それでも中国はまだ実態が多少報道されますが、全く報道されないのが北朝鮮です。従って現在でも北朝鮮に新型インフルエンザの患者がいるのかどうか分かっていません。北朝鮮は、中国でSARSが発生したと判明した以降、患者と疑われる者を徹底して国境から入れないよう異常なまでに狼狽えていたことが判明しています。ワクチンもなく、検査器財もない極貧国にひとたびSARSが蔓延すれば政権が崩壊しかねないほどのダメージを受けるからでしょう。
 今回、日本では疑いのある患者が発生する都度公表し、後から新型ではなかったことを発表しているため、一見発生自治体は振り回されているかのような印象を受けますが、周辺諸国の対応に比べれば正しい方向であると思わなければなりません。
 新型インフルエンザへの対応は、いずれは来るであろう生物テロ対策や、さらに毒性の強い鳥インフルエンザのシミュレーションと思って「禍転じて福」とする位の発想が必要だと思います。

1「『来月に核実験』米で観測」、(『産経新聞』、平成16年9月4日等)。
2Office of the Secretary of Defense, Annual Report to Congress Military Power of the People’s Republic of China 2009, March 2009, p. 20.
3Office of the Secretary of Defense, Annual Report to Congress Military Power of the People’s Republic of China 2009, March 2009, p. 53.
4シドニー 共同、「豪首相にサイバー攻撃」、平成21年4月4日。
5Robert M Gates, A Balanced Strategy-Reprogramming the Pentagon for a New Age-, Foreign Affairs, January/February 2009, pp. 28-40.
6CRS Report for Congress, U.S. and International Responses to the Global; Spread of Avian Flu: Issues for Congress, May 1, 2006, pp. 11, 37.



NO.97 (2009.夏号)
巻頭随想 「おすそ分け」から始まるコミュニティ
1.大規模水害対策に関する国の動き
2.近年の洪水水害の特徴と課題
3.洪水災害対策のハードとソフト
4.洪水災害と情報
5.風水害と放送の役割
6.風水害とボランティア
7.地方公共団体における風水害対策及び図上訓練の実態について
連載講座 連載第4回 洪水防止に臨機応変ー石田三成ー
連載講座 連載第9回 情報と防災
地域防災実戦ノウハウ(60)
火災原因調査シリーズ(53)・電気火災
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