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連載講座 連載第10回 情報と防災

防衛大学校安全保障・危機管理教育センター長
教 授 太 田 文 雄

 日本の社会には多くの外国人が居住しており、その多くは余り日本語が判りません。通常、時間に余裕のあるときは何とか通訳を通して、情報を得ようとするのですが、災害時のような緊急時には大変困ることになります。
 私は、昨年及び今年と都内(六本木ヒルズ)にある外資系会社(リーマンブラザーズとゴールドマン・サックス)に呼ばれて大地震災害時における政府及び東京都の対応について英語による講演を依頼されましたが、講演後の質疑応答を通じて、日本に居住している外国人がどのような不安を持っているかについて、今回紹介してみたいと思います。

質問1:外国人は大震災発生時、何処と連絡を取ったら良いのでしょうか?

 一般的には自国の大使館ですが、地方には領事館すらないところがあります。東京都の場合には、総合防災部あるいは広報部で外国人対応を考えており、ボランティアの通訳を募っていますが、地方の場合はそこまで手が行き届いてないかもしれません。また通訳ボランティアも、地震災害時自分とその家族の被災対処をしなければならないため、何人くらい支援が得られるかについては保証の限りではありません。

質問2:J-アラートは日本語だけでしょうか?

 現在は日本語だけですが、将来の課題として英語の放送も考慮した方が良いのではないかと思っています。今年の4月、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した際もJ-アラートを使用しようとしたのですが、うまくいかなかったようです。

質問3:災害時、官邸や都庁といった政府・都の司令塔が機能しなくなった場合はどうなるのでしょうか?

 西東京の立川に広域防災基地があり、自衛隊、消防庁、警視庁などの援助隊の運用・受入拠点として、また南関東地域における災害応急対策活動の中核拠点として機能することになっています。また湾岸地区の有明に、都が作りました基幹的広域防災拠点は、かなりの免震構造で最終的な補助司令塔として使えます。

質問4:震災時はリソースが不足するので外国からの支援申し出が多くあるように思われるのですが、阪神・淡路大震災の時には、そうした諸外国からの支援に適切に対応できなかったように思われます。その点は改善してきているのでしょうか?

 阪神・淡路大震災の時には、外国からの支援対応だけでなく、地方自治体と自衛隊等との連携もうまくいきませんでしたが、この教訓が生かされ、その後の度重なる地震では、外国からの支援に対して適切に対応できるようになってきています。各地方自治体では、年一回の防災訓練を通じて、様々なシナリオを作成して演練を行っています。

質問5:関東で地震が発生した場合には、道路や鉄道、橋梁が破壊され支援物資が流入してこない中で、医薬品等の不足が心配されますが、その対策はどうなっているのでしょうか?

 東京都では、医薬品だけでなく、食糧や水等に関し数日分のストックを平時から準備していますが、被災が長期に渡ってきた場合には陸路が使用できないので、空輸あるいは海上からの輸送ルートで地方や外国から支援を受けることになると思われます。
 緊急医療に関しては自衛隊の医療部隊が出動します。この医療車両の中では、脳外科以外の手術ができるようになっています。

質問6:ゴールドマン・サックスでは会社がヘリコプターを保有していますが、自社ヘリコプターによって避難場所から自社社員を救出しても問題ないでしょうか?

 震災時には多くのヘリコプターが飛来しますので無秩序に飛び回るのは大変危険です。従って、東京では何回も防災訓練を重ねてきた結果として、都内に進入する場合及び退出する場合の要領を、時計方向・反時計方向、また高度に差を持たせて定めています。ですから毎年9月1日前後に行われる防災訓練時にゴールドマン・サックスのヘリコプターも参加するかあるいは、事前にそうした要領を確認して、都の統制に従った方が良いと思われます。
 毎年、都が莫大な費用とマン・パワーを費やして行っている防災訓練の意義もここにあります。平時に数機のヘリコプターを管制するのと、被災時に数百機のヘリコプターが一度に飛来する場合では全く状況が異なるのです。

質問7:ハリケーン・カトリーナの災害の際には、店のガラスを破って中の商品を掠奪するといった犯罪があったので、州兵が武器を携行して治安の維持に当たりましたが、日本ではそうした対策はとられているのでしょうか?

 阪神・淡路大震災の時には、救援する方も、される方も秩序を維持し、整然と列を作って配布物資をやり取りしていました。また余震が怖いため一夜を車の中で過ごし、翌朝自宅に帰る訳ですが、その際自宅が盗難にあっていたという話も余り聞いたことがありません。従って、救援に向かう自衛隊員は武器を携行せず、救援機材だけしか身につけていません。これは、その後の宮城県北部の地震でも、中越地震でも、能登半島地震の時も同じでした。将来犯罪が多発する事態が発生すれば、その対策を考えなければなりませんが、現時点では、その必要はないものと考えています。
 外国の地震救援に向かったヘリコプターに乗っていた人の話を聞きますと、下から「投下物資をくれ、くれ」と手を出す人が無秩序にいて収拾が着かず、少し離れた場所に救援物資を投下するらしいのですが、それでも力の強い若い男性が物資を独り占めにして、それを売って金を稼ぎ、弱者である女性や子供には行き渡らないようです。幸いにして、こうした状況は日本では発生していませんが、これは日本の常識で世界の非常識であるかもしれません。

質問8:震災のシミュレーション結果を見ると、死者の半数以上が火災による焼死という結果が出ていますが、これを少なくする対策は何でしょうか?

 日本の家屋は木や紙(障子・襖)で出来ている所が多いので、火災が起こると被害が広がりやすい難点があります。こうした難点を克服するために、行政指導として、一定期間を経た建築物を建て替える際には耐震・防火対策がとられた建築物にするようにしています。
 東京都では堅固な都市インフラを構築しようと耐震構造の改善といった防災計画を立てると共に、都市の再開発や区画変更、道路に沿った都市の再開発、木造建築地域の再構築といった計画を推進しています。これによってマグニチュード7.3クラスの地震が18:00頃東京直下を襲った際のシミュレーションでは11,000名の死者(4,100名の障害者を含む)の内57%の6,200名の死者が火災によって発生するところ、11,000名の約半分の5,600名に減らす努力を10年で達成しようとしていますが、その内の4,000名の減少は耐火対策によってなされます。
 しかし、これには時間がかかりますので地域社会としては、その地域にあった防災救助計画を立案し、また消火・復旧チームといったボランティア・グループが必要となってくるでしょう。
 ちなみに、都では11,000名分の棺桶も、大・中・小のサイズで用意しているそうです。市街地に死骸が散乱するのは気持ちのよいものではありませんから。

質問9:震災時、政府機関が救援に駆けつけてくれるまでに、どれくらいの時間がかかるのでしょうか?

 一般的には、各地方からの状況が官邸なり、都庁にあがり、行政のトップが状況を把握して事態認定を決断するまでに約3時間、それから消防、警察、自衛隊等の機関に救援の依頼を出し、部隊が行動を起こして現地に向かうまで約3時間の合計6時間は「魔の6時間」と言われています。従って、この間は自助努力と相互努力によって救援活動を行わなければなりません。
 阪神・淡路大震災の場合でも瓦礫に埋もれた人達が救出されたケースの約75%が近隣の人達の相互努力によってなされており、自衛隊・消防といった政府機関の人達によって救出されたのは約25%だったそうです。自助努力、相互援助、公的支援の三つは救援活動の三本柱と言われています。

質問10:今年の防災訓練には、晴海に米海軍の揚陸艦デンバーが来て搭載ヘリコプターによって救援訓練を行った模様ですが、米軍をも巻き込んでの訓練は、今年が初めてでしょうか?また都では例えば米軍ヘリコプターに、外国人避難民が集中する六本木周辺の避難地に救出に向かわせるといった外国人を対象に特別な救援計画を立てているのでしょうか?

 今年は米海軍の揚陸艦と、その搭載ヘリコプターが参加しましたが、米陸軍のヘリコプターが参加したこともありますし、横田の米空軍が参加したこともあります。今年は米軍のヘリコプターが被災者を所沢にある防衛医科大学に搬送しました。
 私が統合幕僚会議で後方・医療を担当する第4幕僚室長をやっていた2000年には米陸軍が神奈川県の相模原補給処で、広大な敷地に野戦病院を設営する訓練を行い、私も視察したことがあります。相模原の第35補給・サービス大隊の説明によれば約480名が収容できる一般病院が2棟と約500名が収容できる野戦病院が2棟設営できる能力を保有しているそうです。
 後半の質問ですが、都では「外国人向け」といった特別な救出計画は作ってないと聞いています。自国民を保護する任務を持っている各大使館で救出計画を立てているのではないかと思います。

質問11:電気や上下水道、ガスが復旧して業務が再開できるようになるまでに、どれくらいの時間がかかるのでしょうか?

 地震の規模にもよりますが、仮にマグニチュード7.3レベルの地震が、都心を震源地として発生した場合のシミュレーションによれば、上下水道に関しては23区で約半分、西東京では約10%が使用不能になり、回復するのに約30日を要します。電力に関しては23区で約20%、西東京では約2%使用不能となりますが、約一週間で回復します。ガスが最も回復に時間がかかり、約60日を要します。

質問12:震災時の救援における優先順序(プライオリティー)はどのようになっているのでしょうか?

 まず、人命救助を最優先します。次いで食糧・水の補給、そしていわゆるライフ・ラインと呼ばれる電力・上下水道の復旧とを優先します。それから、道路、鉄道、橋梁といったインフラの復旧に取りかかります。そして業務が継続できるような計画に着手するといった順番になると思います。

質問13:マグニチュード7.3の東京直下型地震が発生する際、帰宅が困難になる人は6,500,000名ということでしたが、それらの人達を何故早く帰宅させる必要があるのでしょうか?

 都内に来る物資の補給路が塞がれている状態で、その人達に食糧、水、そしてトイレを都が準備するのは容易なことではありません。このため、海上自衛隊の輸送艦などにより、海路帰宅してもらう必要があります。千葉から通っている人は、何本かの川を越えて帰宅しなければならず、それらの橋は倒壊している可能性が高いので、陸上自衛隊の施設部隊がフローティング・ブリッジを設営することになりますが、その訓練も行われています。

質問14:何故、日本には地震が多いのでしょうか?

 世界にはプレートが12ありますが、その内フィリピン、太平洋、ユーラシア、北米という4つのプレートが日本周辺に集中しているからです。過去、全世界で発生した地震の約10%は日本で発生しています。ちなみに1923年の関東大震災はフィリピン・プレート縁辺部で発生しました。

 以上のように、言葉の障害を持った外国人は地震災害時、いろいろな不安を持っていると言うことをつぶさに感じました。防災に従事する人達は、こうした人達に対する情報の提供に対しても目を向けた、きめの細かい防災対策を取って頂きたいと思います。

(了)



NO.98 (2009.秋号)
巻頭随想 伊勢湾台風から50年
1.伊勢湾台風と災害対策基本法の制定
2.伊勢湾台風災害の教訓を今後の防災・減災に生かす
3.温暖化による台風強大化に向けて重要となる伊勢湾台風災害の教訓
4.伊勢湾台風50年に思う:記憶と教訓の宝庫
5.伊勢湾台風の被害と洪水多発地帯の防災についてー輪中と伊勢湾台風についてー
6.伊勢湾台風以降の岐阜県における防災対策の取組みについて
7.伊勢湾台風から50年の節目の取組み
8.「伊勢湾台風から50年」三重県の防災対策
9. 昭和34年(1959年)伊勢湾台風に関する石碑・慰霊碑等について
連載講座 連載第5回 治水工法でリーダーシップ・武田信玄
連載講座 連載第10回 情報と防災
地域防災実戦ノウハウ(61)
火災原因調査シリーズ(54)・シュレッダー火災
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