お問いわ合せ
サイト内検索
季刊 消防防災の科学
地域防災データ総覧
大規模地震対応の各種マニュアルの販売
HOME
消防防災GIS
災害写真データベース
e-ラーニング
一般財団法人消防防災科学センター
HOME > 防災関係資料
8.神戸市における新型インフルエンザの対策ーこれまでの対応を振り返った今後の対策ー

神戸市危機管理室 

1.はじめに

 国内初の新型インフルエンザの患者発生を経験した神戸で、市がとった対応状況について、新型インフルエンザ対策 本部の動きや発生前後の取り組みなどを含めて対応の概要を紹介する。また、今回の対応について(財)神戸都市問題 研究所、京都大学防災研究所林春男教授、新潟大学危機管理室田村圭子教授と神戸市で検証研究会を設置し検証を行っ た。同研究会より、今後の取り組むべき対策についての提言を受けたので、その概要を紹介する。

2.神戸市の対応の概要

 28日早朝(日本時間)にWHOが「フェーズ4」(限定されたヒトーヒト感染)を発表したことを受け、「神戸市新型イ ンフルエンザ対策本部」を設置した。
 5月9日、成田空港において海外から帰国した人の中から感染者が確認され、国内での発生に備えて、実施マニュアル の作成や感染者が発生した場合の対応方法について検討を行い、国内発生を想定したシミュレーションを実施していた 。
 15日の深夜、「感染が否定できない可能性のある患者」が発生し、16日午後に正式に新型インフルエンザの感染が確 認された。16日早朝、第5回新型インフルエンザ対策本部員会議を開催し、事前に作成した計画を踏まえ、当日に実施 予定であった神戸まつりの中止、第一学区(東灘区・灘区・中央区・芦屋市)の学校園の休校措置の決定を行った。発 熱相談センターへの問い合わせが増加し、ピーク時には1日約2,600件(5月19日)の問い合わせがあった。
 その後も、感染が確認され、全市への休校の拡大や一般市民への不要不急の外出自粛、手洗い・マスクの着用などの 呼びかけを行った。マスクの供給不足、商業施設の来客・売上の減少、神戸への修学旅行や個人旅行のキャンセルが相 次ぐなど、社会経済活動への影響は大きなものとなった。
 最初の感染者発生から1週間経過した22日に本部員会議を開催し、23日から休校措置が解除された。
 発熱相談センターへの相談件数は減少し、発症者数は散発状態になったが、旅館・ホテルの利用客が大幅に落ち込ん だままであった。このように、社会経済活動への影響が問題となる中で、神戸市長は5月28日に「ひとまず安心宣言」 を発表した。
 「ひとまず安心宣言」の結果、市内は以前の状態に徐々に戻り始めた。しかし、観光面での風評被害等の影響は大き く、神戸市では「行こう!神戸」キャンペーンなどを実施し、施設の無料開放等を行った。また、一旦中止となった「 神戸まつり」についても、7月に実施することなど、神戸の回復を全国へ発信していった。

図 神戸市における新型インフルエンザ対応の全体図

3.市民・企業・マスコミ関係者・行政からの意見を基にした検証結果

 神戸市、市民、企業それぞれの今回の新型インフルエンザに関する対応状況について、市民・事業者・行政との協働 と参画によって検証することを通して、得られた教訓をもとに、今後の「備え」としてより効果的な対策の提言を受け た。
(1)意見の聴取方法
 市民からは、「新型インフルエンザ発生時における消費行動調査(アンケート)」と「市民ワークショップ」を開催 した。
 企業からは、感染拡大防止のための対策、売上や生産、業務への影響などを把握するため、市内企業を対象にアンケ ート調査を実施した。また、事業者のワークショップも開催した。
 マスコミは、市民にとって主要な情報源となっていた。そこで、行政の記者発表のあり方や過剰報道・風評被害等に ついて、マスコミ関係者との意見交換会を開催した。
(2)意見の総括
 神戸市が、感染拡大防止のために「休校措置」「神戸まつりの中止」 等を迅速に決断したことが高く評価された。
 市民は「判断の根拠となる具体的な情報」を行政や関係機関に求めた が、十分な情報提供がなされなかった。
 市の情報提供が信頼されており、特に「ひとまず安心宣言」など市長 からのメッセージが高く評価された。
 新型インフルエンザに感染した個人やその在籍する学校への誹謗・中 傷が見られた。
 宿泊施設や観光施設を中心に、観光客の減少が顕著に見られたほか、 小売・卸売業等における売上の減少といった影響も見られた。
 数日で相談件数の激増、受入診療機関での外来受診者の超過、病床の 満床という状況になった。そのため、神戸市医師会に対し、医療体制について蔓延期に準じた協力を依頼した。発熱患 者の診療について、時間的・空間的に分けるなど感染防止対策をとりながら、通常の診療が行われるところとなった。
 危険情報については大きく報道される一方で、安心情報については小 さく報道される傾向が見られた。

4.検証結果を踏まえた今後の対応に向けた提言

 前述の検証結果を踏まえ、今後の新型インフルエンザ対応に向けて、まず、その対応目的を掲げ、ついで、その目的 を達成するための対応の枠組みと具体策を提言された。
(1)目的とその達成目標
 危機管理としての新型インフルエンザ対応の目的は、「守るべきはわたしたちの健康」の実現とし、以下の5点を達 成目標とする。
  市民一人ひとりの努力で個人の抵抗力・回復力を高める。
  みんなでインフルエンザ全般の予防に努める。
  医療機関を中心に発症対策を充実する。
  地域ぐるみ・組織ぐるみで、通常の社会生活を維持する。
  以上の4つの目標を実現するために神戸市は全市あげて対策に取り組 む。
(2)対応の枠組みー「新型インフルエンザ対応神戸協働のしくみ」ー
  検証を通じて、流行を最小限に留めることに効果があったのは、市 民や事業者が一人ひとりの健康を守るための努力と工夫をしたことである。
  行政は情報発信力が大切であり、とりわけ効果的であったのは、重 要な情報を市長自らが直接発した「市長メッセージ」であった。また、組織間連携の大切さから、区を活動の場とする 「感染症早期探知地域連携システム(神戸モデル)」の取り組みが提案された。
  5つの達成目標を実現するための枠組みとして、「新型インフルエン ザ対応神戸協働のしくみ」が提案された。
これは、「神戸モデル」を基にして、予防・発症対策を継続的にレベル アップさせるしくみである。

 図のしくみを具体的に表すと、
学校園、施設や神戸市医師会、国、県等の関係機関と連携しながら「神戸モデル」 を活用して、地域の感染状況を把握し、全庁の対処方針を決定するための基本情報とする。
「神戸モデル」で捉えた地域情報に加えて、国、県、専門機関などから広く情報を 収集・分析して、対策本部員会議において、対処方針を決定する。
決定内容を、市長メッセージとして、記者会見やホームページなどの媒体を通じて 、市民に直接、迅速、正確に伝える。また関係各局を通じて、学校園、施設、企業に必要な対策を働きかける。
医療機関と連携して効果的な発症対策にあたる。
区は、学校園・施設・企業・医療機関と連携して、市民に対して、適切な予防・発 症対策を実施する。
市民・学校園・施設・企業・医療機関等の各主体の状況変化を、「神戸モデル」に よって継続的に把握することで、次の全庁的な対応に反映させていく。

(3)新型インフルエンザに係る今後とるべき対策
  各主体に期待される対策
 事業継続計画の作成などの「仕組みづくり」。手洗い、うがいの励行やインフルエンザへの抵抗力・回復力の維持・ 向上を図ることなどの「かからないための対策」。かかったら咳エチケット、自宅内隔離、外出自粛など広げない責任 を果たすなどの「うつさないための対策」が市民、施設、学校園、企業に対して期待される対策として提言された。
  市が実施する主な対策
 情報提供を中心とした予防対策、発症対策や体制の充実、関係機関との連携強化について具体的な対策が提言の中で 示された。新型インフルエンザの基礎的知識を市民にわかりやすく伝えるための広報紙KOBE特別号を9月に発行した事 をはじめ、提言された対策について各局室区で既に実施されている。
  風評被害対策など
 個人・学校への誹謗・中傷と経済的損失があった。感染症法では「感染防止のためには、情報の公開が必要」とされ ているが、個人情報保護の観点からその取り扱いには注意を要する。報道機関への情報提供を迅速に行うとともに、安 心情報の発信やイベント等の広報にあたっては、報道機関が取り上げるように、インパクトのある方法を工夫する。

5.今後想定されるシナリオ

  「検証結果を踏まえた今後の対応に向けた提言」を受け、最近の流行状況をもとに、今後起こりうる可能性のある 複数のシナリオを想定して、シナリオ毎に対策を準備する「シナリオプランニング」と、流行状況の変化を迅速に把握 して、早期に対処方針を打ち出すために、基本情報の収集・分析機能を持つ「インテリジェントシステム」の構築が提 案された。
(1)想定シナリオ
 「若年者中心」「高齢者移行」「変異型」の3種類のシナリオを想定した。
(2)シナリオ別対策
若年者中心シナリオ
 体調不良のサインを見逃さず適切に医療機関を受診(特に乳幼児)
 保護者への説明の徹底
高齢者移行シナリオ
 高齢施設等での蔓延防止策
 民生委員の基礎研修の実施等ひとりぐらし高齢者見まもり活動の充実
 衛生習慣の徹底
変異型シナリオ
 新型インフルエンザ外来の設置等診療医療機関の確保
 学校園の一斉休業等の検討
 事業継続計画に基づき社会経済活動の低下に対する対応
 集会の延期・中止・集会方法の改善
(3)注目すべき指標
 定点(年齢別発症者構成比)
 学校園の状況(学級閉鎖、欠席者数等)
 保育所等社会福祉施設の状況
 入院サーベイランス
 WHO・CDC・国立感染症研究所・環境保健研究所情報
 タミフル投与者の重症例、死亡例、既感染者の再罹患
 ウイルスサーベイランス
(4)インテリジェントシステムの構築
 市民の生命と健康を守る観点から、行政は、新型インフルエンザの発症状況を的確に把握し、その動向について、適 切な情報提供を迅速かつ定期的に行うことが求められる。
 そのため、定点当たりの患者数等に加え、学校園、保育所での欠席情報など有用な複数の情報を連携して体系的かつ タイムリーに、流行状況の情報を提供(サーベイランスシステム)し、それをシナリオプランニングへの活用につなげ ながら、市が取り組むべき対応策の判断材料や、市民の行動指針の目安として戦略的に活用するインテリジェントシス テムを構築する。

6.おわりに

 神戸市では、第44週をピークに減少が続いている。小中学校では、これまでに約4割の児童生徒がインフルエンザを 理由とした欠席があった。例年、季節性のインフルエンザの流行が始まる時期を迎え、今後の感染の状況については一 層の注意が必要である。
 今回の検証でシナリオプランニングが提言された。特に重要なのは、シナリオ移行の兆しをいかに的確にとらえるか である。そのためのインテリジェントシステムを現在構築中であるが、各機関の情報を漏れなく、早期にシステムに取 り込むこと、そして、その情報を分析しシナリオ移行の兆しを判断できる体制の構築が必要である。
 今回の検証作業は、危機管理の観点からどのように全庁的な対策を構築するかを主眼として行った。これが、今後あ らゆる危機対応の参考になるものと考えている。



NO.99 (2010.冬号)
巻頭随想 死をめぐって・・・病院外心停止と救急のニーズ
1.新型インフルエンザ(パンデミックH1N1 2009)の現状
2.新型インフルエンザとは何か
3.消防機関における新型インフルエンザ対策
4.報道の立場から見た新型(豚)インフルエンザ騒動
5.茨城県における新型インフルエンザへの対応
6.新型インフルエンザに対する救急活動の取り組み
7.新型インフルエンザに対する京都府の取り組み
8.神戸市における新型インフルエンザの対策ーこれまでの対応を振り返った今後の対策ー
防犯まちづくりから消防への示唆
火災・事故防止に資する防災情報データベースについて
連載講座 連載第6回 つらい仕事もチームで楽しくー木下藤吉郎ー
地域防災実戦ノウハウ(62)
火災原因調査シリーズ(55)・倉庫火災
ホームへ戻るこのページの上へ
Copyright © INSTITUTE OF SCIENTIFIC APPROACHES FOR FIRE & DISASTER All Rights Reserved.