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防犯まちづくりから消防への示唆

独立行政法人建築研究所
主任研究員 樋 野 公 宏

1.防犯環境設計とは

 防犯環境設計1という言葉をご存じだろうか。ここでいう「環境」とは地球環境問題などの「環境」とは異なり、周辺環境あるいは状況と言い換えられる。つまり、犯罪の起こる環境や状況に着目し、その設計や改変によって防犯を目指す考え方である。
 70年代米国では、犯罪者の内側に犯罪の原因を求め、その原因の除去によって再犯を防ごうとする従来の方法の限界に批判が集まった。防犯環境設計は、そのアンチテーゼとして登場した「場所に基づく防犯理論」2のひとつである。従来の方法が、刑務所や少年院での処遇による事後的対応を目的とするのに対し、後者は事前の予防を可能にする点で大きく異なる。着目する対象にも「人(犯罪者)」か、「環境」かの違いがある。
 わが国において防犯環境設計は多くの防犯指針の拠り所とされ、一般に以下の4つの基本原則に整理して説明される。
1)監視性の確保:通行者や居住者の視線が注がれること。見通しや照度の確保により、視線が通りやすくなる。
2)領域性の強化:物理的、心理的障壁により領域を明示すること。環境の適切な維持管理も有効とされる。
3)接近の制御:犯罪企図者が被害対象者(物)に近づきにくくすること。
4)被害対象の強化・回避:被害リスクのある人や物に、犯罪に対する抵抗力をつけたり、回避させたりすること。

防犯環境設計の基本原則

2.消防との関わり

 犯罪対策閣僚会議による「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」(2003年12月)を踏まえ、消防庁は2005年1月、「放火火災防止対策戦略プラン」を公表した。このなかには、地域住民が自ら地域の危険度評価をするための「あなたの地域の放火火災に対する危険度のチェックシート」が掲載されており、41の質問(評価項目)に答えると5つの中項目(環境要因、敷地・建物への侵入防止、可燃物等の整理、火災の初期対応、コミュニティ、住民同士の協力体制)ごとの得点が求められ、放火に対する地域の危険度が分かるようになっている。
 評価項目には、路上犯罪や空き巣対策とも一致するものが多い。「街路灯の設置状況は、充足されていますか」等の環境要因に関わる項目だけでなく、「コミュニティ」「住民同士の協力体制」といった中項目も、防犯まちづくりにおいて極めて重要である。こうした一致は、放火が犯罪(しかも凶悪犯罪)であることを考えれば当然かもしれないが、放火が出火原因の多くを占めることを鑑みると、消防と防犯はより協働して対策を講じていくべきだろう。
 例えば、各住宅の門灯や玄関灯によって町並みを明るくして犯罪を防ごうとする「一戸一灯運動」は、夜間の路上の安心感を高めるだけでなく、放火対策としても有効であろう。この運動は比較的取り組みやすい地域防犯活動として、いくつかの自治体で支援制度があり、多くの地域で実施されている。

地域住民によるくらがり調査(旭川市)
調査結果を踏まえて、一戸一灯運動の促進や防犯灯の増設が行われる。

 また、清掃や花づくりなどの美化活動は、犯罪者の近寄りにくい環境を生むとともに、住民の美意識を高め、雑然と可燃物が置かれない地域づくりにもつながる。

見守りフラワーポット大作戦(安城市)
参加世帯の玄関前に置き、登下校に合わせた水やりなどで児童を見守る。

3.第二世代の防犯環境設計

 犯罪者の処遇を通じた防犯の限界を背景に生まれた防犯環境設計は、米国政府の資金提供による大規模な調査で、住宅地や商業地など実際の場所に適用された。しかし、期待されるほど犯罪と物理的環境との関連は強くなく、80年代を通じて衰退することとなる。
 こうして近年では、物的環境だけでなく社会環境の改善にも目を向けた、より包括的な防犯手法が採られるようになってきた。米国では、従来の防犯環境設計が物理的手法に偏っていたことへの批判から、社会設計の考え方を取り入れた「第二世代防犯環境設計」なる考え方も生まれている。提唱者のサビルら3は、コミュニティを重視する下記の原則を追加した。
コミュニティの文化の強化:コミュニティ構成員が、これぞ自分たちのコミュニティだと思えるような催しを積極的に行うこと。
社会的結束力の強化:地域の防犯診断やミーティングなどを通じて、コミュニティ構成員同士の相互交流を生み出し、社会的紐帯を強化すること。
外部集団との連携強化:他のコミュニティとの連携を強化すること。
 しかし、「第二世代」と改めて言うまでもなく、わが国では町内会等のコミュニティを核とした防犯、防災活動が当然のように行われてきた。昨年著者が訪れたカリフォルニア州ニューポートビーチ消防署では、災害直後の自助・共助を目的として、市民のための訓練プログラムCERT4を行っていたが、彼らが目標に掲げていたのは阪神・淡路大震災時のコミュニティであった。防犯についても、私たちは従来から行われてきたコミュニティによる防犯活動(ソフト)を基盤に、物的環境の改善による防犯(ハード)にも取り組むのが理想である。

4.安全マップづくりのススメ

 コミュニティを基盤にハードの防犯まちづくりを、と言われても何から始めればよいかピンと来ないかもしれない。著者は、すでに多くの小学校で作成されている「安全マップ」がその起点になると考えている。一般的な安全マップは、小学校が実施主体となり、防犯環境設計の考え方を学んだ子どもたちが、実際に地域を歩いて課題を発見し、模造紙上の地図にまとめるという取り組みである。しかし、「まちづくり」を考える時、安全マップづくりには子どもだけでなく、地域の大人も参加することが望ましい。
 松山市の郊外に位置する久米地区(=4小学校区=1中学校区)は、2005年度以降、安全マップづくりに取り組み、公園の見通し改善や街灯の増設などの改善を行ってきた地区である5。久米地区の取り組みの特徴は下記の3点にあると考えている。
1)地域が実施主体であること
 多くの場合、安全マップは学校の授業として行われるが、久米地区では、公民館が実施主体である。そのため、参加者は児童(生徒)と教員だけでなく、地域住民、NPOなど幅広い。
 また、完成したマップは配布用にコンパクトにまとめられ、学校や地域の関係者に幅広く配布され、情報共有が図られている。多様な主体が協働し地域課題に対する共通認識を持つことで、それぞれの役割に応じた多様な対策が可能になっている。
2)取り組みが継続的であること
 安全マップが全国的に普及したとは言え、一度作ったら終わりの単発的な取り組みとして認識されていることが少なくない。久米地区では毎年安全マップづくりを行い、地域環境の変化に対応した更新を行っている。小学校時代に体験した中学生が、小学生をまとめるリーダー役になるという循環も生まれている。
 2008年度の安全マップでは、久米小学校前の通過交通、福音公園の不安の2点が重点課題に挙げられた。これを受け、2009年度は専門家の協力のもと、通過交通の実態調査、公園に対する意識調査と改善に向けたワークショップが行われた。
3)視点が総合的であること
 安全マップは防犯の視点のみから作られるため、提案される改善策も防犯を単目的とするものになりがちである。これでは例えば、公園の見通しのために豊かな緑が失われるなど、防犯のために他の価値を損ないかねない。久米地区では、犯罪に限らず交通事故、転落・転倒といった子どもの安全全般に視点を広げ、さらには、ネガティブチェック(悪所探し)だけでなく地域の好きな所や残したい所を積極的に探している。これは、子どもが地域への関心や愛着を持つことにもつながる。
 安全マップづくりのアプローチは火災対策にも応用可能だと思われる。先述の「あなたの地域の放火火災に対する危険度のチェックシート」で必要な知識と視点を身につけ、できるだけ多様な参加者で地域を点検していただきたい。

まちあるきの様子
ジャージ姿がリーダーの中学生、帽子姿はみまもり隊の地域住民。

安全マップづくりの様子
地図上に現場の写真やコメントを書いた付箋紙を貼り付けていく。

5.おわりに

 2009年5月、消防庁は「災害対応能力の維持向上のための地域コミュニティのあり方に関する検討会」報告書を公表した。小中学校区をベースとした活動、地域住民による問題点の共有及び解決(地域におけるガバナンス)という考え方は、防犯まちづくり分野と軌を一にする。
 上述のCERTプログラム担当の消防官が「日本のようなコミュニティがあれば」とつぶやいたのが心に残っている。彼は数十年前に日本で柔道を学んだ経験があったそうだが、いま私たちは当時のコミュニティを維持できているだろうか。
 環境に着目した地域の現状分析から、地域住民による課題解決に至る防犯まちづくりのアプローチが、消防さらには、福祉、教育など様々な分野に広がることと、地域コミュニティの再生が並行して進展することを期待したい。

配布版の安全マップ(カラー・A2判12折)
イラストタッチで地域の魅力と課題、地域資源などが描かれている。

1 Crime Prevention through Environmental Designの訳語。CPTED(セプテッド)とも呼ばれる。
2 Place Based Crime Preventionの訳語。
3 Saville, G. & Cleveland, G. (1997), “2nd generation CPTED: An antidote to the social Y2K virus of urban design”, 1998 International CPTED Association Conference
4 Community Emergency Response Teamの略語。
5 久米地区の取り組みは下記に詳しい。
樋野公宏(2005)「松山市久米地区における地域安全マップづくり報告」、新都市、vol. 59-10 樋野公宏(2008)「松山市久米地区における「続」地域安全マップづくり報告」、新都市、vol. 62-7



NO.99 (2010.冬号)
巻頭随想 死をめぐって・・・病院外心停止と救急のニーズ
1.新型インフルエンザ(パンデミックH1N1 2009)の現状
2.新型インフルエンザとは何か
3.消防機関における新型インフルエンザ対策
4.報道の立場から見た新型(豚)インフルエンザ騒動
5.茨城県における新型インフルエンザへの対応
6.新型インフルエンザに対する救急活動の取り組み
7.新型インフルエンザに対する京都府の取り組み
8.神戸市における新型インフルエンザの対策ーこれまでの対応を振り返った今後の対策ー
防犯まちづくりから消防への示唆
火災・事故防止に資する防災情報データベースについて
連載講座 連載第6回 つらい仕事もチームで楽しくー木下藤吉郎ー
地域防災実戦ノウハウ(62)
火災原因調査シリーズ(55)・倉庫火災
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