お問いわ合せ
サイト内検索
季刊 消防防災の科学
地域防災データ総覧
大規模地震対応の各種マニュアルの販売
HOME
消防防災GIS
災害写真データベース
e-ラーニング
一般財団法人消防防災科学センター
HOME > 防災関係資料
連載講座 連載第6回 つらい仕事もチームで楽しくー木下藤吉郎ー

作家 童 門 冬 二

 豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎といっていた時代の話だ。主人は織田信長だ。あるとき信長の拠点である尾張(愛知県)清洲城が台風でかなりの被害を受けた。とくに、城のまわりを囲んだ塀がメチャメチャに壊れた。当時信長は四面を敵に囲まれていたので、いつ攻めこまれるかわからない。信長は普請奉行に修理を命じた。しかしいつまで経っても塀が直らない。苛立った信長は普請奉行をクビにした。そしてかわりに藤吉郎を呼び出した。「おまえが塀の修理をしろ」と命じた。藤吉郎は工事現場にいった。破壊された塀はまだほとんどそのままで、しかも労務者たちはあっちこっちに座りこんでは、ベチャベチャおしゃべりをしている。やる気はまったくない。藤吉郎は労務者の代表を呼んできいた。
   「どうしてみんな働かないのだ?」
 労務者の代表は答えた。
 「いつまでに塀を修理すればいいのか、前のお奉行様はなにも教えてくれません。それに、この仕事を成し遂げたときの褒美がいくらなのか、それも知らないというのです。張り合いがないので、みんなああやってうずくまっているのです」
 そうかとうなずいた藤吉郎は考えた。
 (なによりも、働き手のやる気を起させなければならない)
 と思った。しかしそれにはどうすればよいか。藤吉郎は現場を歩きながら考えをめぐらせた。このときかれが出した結論は次のようなものだ。
 ・工事現場を十ヶ所にわける
 ・百人いる労務者を十組に分ける
 ・しかし、どの組に入るかは労務者たちの自由に任せる。それは、おなじ組に入っても嫌いな者がいたときは、やる気は起ってこない。かえってマイナスになる
 ・工事現場のどこを受け持つかは、これもまたクジ引きなどによって各組の自由に任せる
 ・そして、いちばん早く修理の終った組には、信長様から褒美を出してもらう
 というようなことだ。かれは全員を集めてこの話をした。みんな顔をみあわせた。思いもしない方法だったからである。
 そこでその日は自分の金で買った酒を振舞い「きょうは帰って寝ろ。仕事はあしたからでいい」と告げた。
 みんなはよろこんで酒を飲んだ。藤吉郎は満足して家に戻った。しかしなにか気になるので、夜になってから再び現場にいった。そして眼をみはった。労務者たちは十組に分かれてそれぞれ仕事をしていた。あちこちに松明が灯され、夜間照明のように煌々と輝いている。藤吉郎はその光景をみて、思わず胸の中に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。うれしかった。
   (みんなは、よろこんで働いてくれている)
 と思ったからである。破壊された塀の修理は一晩で終った。藤吉郎は代表にきいた。
 「なぜ、おまえたちは酒を飲んだ後家に帰らなかったのだ?」
 代表はこう答えた。
 「木下様は、なぜ塀の修理を急ぐかという説明に、塀が壊れたままで敵が攻めこんできたら、殺されるのは信長様だけではない、おまえたちも、おまえたちの家族も殺されてしまうのだ。だから、自分と家族を守るためにも、塀を一刻も早く元の姿に戻そう、とおっしゃったあの説明が効いたのです」
 「そうか」
 藤吉郎はうなずいた。たしかにそういう説明をした。藤吉郎は、ただ塀の修理を急げ急げといってもダメだと思っていた。現場で働く労務者はやはり、
 「なんのために、自分はこの仕事をするのか? そして、この仕事はなぜそんなに急ぐのか?」
 という理由をしっかりと知り、納得しなければ十分な力は発揮しない、と思っていた。しかしそれ以上に、
 「自分のやっている仕事によろこびを感じ、生き甲斐を感ずる」
 という精神的なものが得られなければ、なかなか動くものではないと体験で知っていた。つまり現場で単純な仕事に従事するからといって、上のほうで簡単に考え、
 「ただ、指示命令だけすればよい」
 というようなきもちで臨んだら、決して現場は思うようには動かない、と思っていた。
いってみれば、
 「なんのために塀の修理を急ぐのか」
 という目的を、噛み砕いて説明したのだ。これが当った。労務者たちはひとりひとりが塀の修理を自分のこととして考えた。そして、
   「どうせのことに、家に帰らずにいまから仕事をはじめよう。そうすれば、場合によっては信長様からご褒美がもらえるかもしれない」
 と奮い立ったのである。そうなると、競争心が湧く。ほかの組に負けてたまるか、というモラール(やる気)が全員の胸に湧いた。だから、そのやる気が相乗効果を起し、火の玉となってたった一晩で塀の修理を完成させたのである。
報告をきいた信長はおどろいて眼をみはった。そして「サル(藤吉郎のあだ名)、さすがだな」と褒め、藤吉郎が望むように、労務者たちに褒美の金を出してくれた。藤吉郎は大いに面目を施した。この話で感ずるのは、藤吉郎が若いころから、
   「大きな仕事は、個人ではなくチームを組み、そのチームワークによって成功させる」
というやり方を心得、実行したことである。


NO.99 (2010.冬号)
巻頭随想 死をめぐって・・・病院外心停止と救急のニーズ
1.新型インフルエンザ(パンデミックH1N1 2009)の現状
2.新型インフルエンザとは何か
3.消防機関における新型インフルエンザ対策
4.報道の立場から見た新型(豚)インフルエンザ騒動
5.茨城県における新型インフルエンザへの対応
6.新型インフルエンザに対する救急活動の取り組み
7.新型インフルエンザに対する京都府の取り組み
8.神戸市における新型インフルエンザの対策ーこれまでの対応を振り返った今後の対策ー
防犯まちづくりから消防への示唆
火災・事故防止に資する防災情報データベースについて
連載講座 連載第6回 つらい仕事もチームで楽しくー木下藤吉郎ー
地域防災実戦ノウハウ(62)
火災原因調査シリーズ(55)・倉庫火災
ホームへ戻るこのページの上へ
Copyright © INSTITUTE OF SCIENTIFIC APPROACHES FOR FIRE & DISASTER All Rights Reserved.