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地域防災実戦ノウハウ(62)

ー プロアクティブの原則 ー

Blog防災・危機管理トレーニング

主  宰 日 野 宗 門
(元 消防科学総合センター研究開発部長)

 前回まで、シナリオ型被害想定をテーマに13回にわたり解説してきました。今回からしばらくはテーマを特定せずに、地域防災のための実戦的なノウハウ、考え方、手法等を述べていきたいと思います。今回は、「プロアクティブの原則」をとりあげます。

1.プロアクティブの3つの原則

 最近ではご存知の方も多いと思われますが、近年日本に紹介された危機管理に関係する重要原則に「プロアクティブの原則」というものがあります。この原則は以下の3つの原則から構成されています。
 疑わしいときは行動せよ
最悪事態を想定して行動せよ
 空振りは許されるが見逃しは許されない

 長年、防災業務に従事している人であれば、「防災対応はオーバーアクションくらいが良い」、「防災対応は常に前倒しで行うべきである」という言葉を一度くらいは聞いたことがあると思います。これらの言葉は、過去に大災害があるたびに、識者が行政機関等の「災害規模に比し小規模な活動体制」や「油断による対応の遅れ」などを指摘する際にしばしば使用されていました。
 プロアクティブの原則はこれらの言葉と同類ですが、より洗練された形で整理されていると言えます。

2.「当然と考えること」と「当然のこととして実施できること」とは大きく異なる

 防災関係者なら誰でもプロアクティブの原則を当然と考えると思います。しかし、本当に大切なことは、この原則を「当然と考えること」ではなく、「当然のこととして実施できること」です。残念ながら、両者には大きな隔たりがあります。
 具体的なケースを想定して考えてみましょう。
 あなたは、防災主管課の職員だとします。
 「梅雨期に入り、何度も大雨洪水警報が発表された。そのたびごとに関係職員の待機あるいは動員を行った。しかし、管内には豪雨も被害も発生しなかった。職員の中には、頻繁な待機・動員にウンザリといった顔の者も出てきた。また、財政部局からは、勤務時間外に行った職員動員に伴い残業代が少なからぬ額であるとの報告があった。
 このような経過の後に、ウィークデーのある日の退庁時刻直前に梅雨入り後5回目の大雨洪水警報が発表された。しかし、雨はまだ降っていない。」
 上記のようなケースに遭遇したとき、あなたはプロアクティブの原則を貫徹できるでしょうか?
 3つの原則に沿って考えてみましょう。
 

 「疑わしいときは行動せよ」原則に照らして
 重大な災害の起こるおそれがある(=疑わしい)から大雨洪水警報が出たわけですから、それに備えて行動する必要があります。しかし、退庁間際の警報であること、既に過去4回の大雨洪水警報では大事に至っていないこと、「またか」と言いたげな関係職員のウンザリ顔、空振りに終わった場合の財政部局からの嫌みやプレッシャー等々があなたの頭をよぎります。
 そのような思いを振り切って関係職員を所定の配備につかせることが、あなたにはできるでしょうか?

「最悪事態を想定して行動せよ」原則に照らして
 大雨洪水警報は発表されましたが、「雨はまだ降っていない」状況で最悪事態を想定して行動することは可能でしょうか?文字どおりに「最悪の事態を想定」すれば、職員を退庁させずに「全職員配備」体制へ移行することになるのでしょうが、さすがにそれはしゃくし定規の解釈と思われます。
 実際的には、防災主管課職員のあなたは、「全職員配備」もありうることを想定し、「ア.そのような事態に至るまでの過程においてとるべき自分自身や防災主管課及び災害対策本部事務局の対応を確認しておく」、「イ.全職員に対し庁内放送などにより意識や構えを徹底(状況の急変に備え気象情報や降雨状況に常に注意すること、異変を感じたら指示を待つことなく早めに参集すること等)する」ことなどの手を打つべきでしょう。
 さて、その後、降雨が開始し途中で豪雨へ変わりました。災害はまだ発生していません。この時点であなたの頭をよぎることはどのようなことでしょうか?
 「豪雨に変わったが、すぐに止むかも知れないのでもう少し様子をみよう」との考えに傾くことはないでしょうか?気象台から大雨洪水警報解除の発表があればこのような対応で良いでしょうが、そうでない限り、豪雨開始とともに「最悪事態」シナリオへ至る確率は高まったと考えるべきです。
 この時点での「最悪事態を想定した行動」としては、「ウ.配備職員の増強」、「エ.その他の職員に対して事態の急変への備えの徹底」、「オ.住民への迅速な広報体制の確認・確立(ローカルマスコミなどとの連携の確認)」などが例として考えられます。
 以上に例示したア〜オの対応をあなたは当たり前のこととして実行できるでしょうか?
(注)ここでは省略しましたが、この原則に照らして議論する場合、「最悪事態とはどのような事態」なのかを明らかにしておく必要があります。「過去最悪の災害時の事態」、あるいは「最近実施した被害想定の最悪ケースで想定される事態」といったことなどが考えられますが、いずれにしろ、中途半端な事態の想定は避け、「全職員が忙殺される」程度のものを想定するべきです。

 「空振りは許されるが見逃しは許されない」原則に照らして
 ゝ擇哭△慮饗Г鳳茲辰涜弍すれば、空振りはあっても見逃しは防げると思います。しかし、空振りが続いたらどうでしょうか? おそらく、次の機会にはあなたの脳裏を「また空振りだったらどうしよう」との思いがかすめると思われます。
 一度や二度の空振りであればそのような思いを打ち消すことができたとしても、「空振り」が度重なるとあなたの心中はおだやかではありません。いつしか、「空振り」の経験(あるいは恐怖)が、あなたに,筬△慮饗Г鳳茲辰涜弍することをちゅうちょさせ、本来必要な対応体制の規模を縮小させるといった選択をさせることになります。災害は意地悪であり、そのような脆弱な体制のときに限って襲ってきます。
 この原則は、そのような状況に陥りがちな防災関係者を支え励ますものとして重要です。行政組織内部の論理としては、「空振り」は経費や時間の無駄のようにとらえられがちですが、この「空振り」があるからこそ「見逃し」がないことになります。この「空振り」は「住民の生命・財産を守る」ための保険なのです。

3.プロアクティブの原則の貫徹を阻む根源

 前述のケースでは、一防災担当職員の立場からプロアクティブの原則を貫徹することの困難さを考察しました。しかし、既にお気づきだと思いますが、防災担当職員が直面した困難さの根源は、行政組織の中にプロアクティブの原則に対して抑制的に働く要因が少なからず存在することにあります。これは災害だけでなく危機管理の対象となる事象全般に共通する現象です。そのような要因を発見し、それを取り除かない限り、この原則はその真価を発揮できないといえます。
 このような活動は一防災担当者ではできません。首長や幹部には、プロアクティブの原則が当たり前のこととして通用する組織風土(組織の災害文化)の醸成に努力することが強く求められます。

4.おわりに

 プロアクティブ(proactive)には、「先を見越した」、「先んじた」という意味があります(英辞郎)。プロアクティブの3つの原則を理解するとともに、プロアクティブという言葉が本来持つ「先を見越した」、「先んじた」といったより普遍性を有する積極的な意味合いをその背後に読み取ることが必要です。
 以前、狭義の危機管理(緊急時の危機管理)の本質が、「状況を先読みしながら先手々々で対応する」ことであると解説しましたが、プロアクティブの原則はそれに通じる内容を有しています。



NO.99 (2010.冬号)
巻頭随想 死をめぐって・・・病院外心停止と救急のニーズ
1.新型インフルエンザ(パンデミックH1N1 2009)の現状
2.新型インフルエンザとは何か
3.消防機関における新型インフルエンザ対策
4.報道の立場から見た新型(豚)インフルエンザ騒動
5.茨城県における新型インフルエンザへの対応
6.新型インフルエンザに対する救急活動の取り組み
7.新型インフルエンザに対する京都府の取り組み
8.神戸市における新型インフルエンザの対策ーこれまでの対応を振り返った今後の対策ー
防犯まちづくりから消防への示唆
火災・事故防止に資する防災情報データベースについて
連載講座 連載第6回 つらい仕事もチームで楽しくー木下藤吉郎ー
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火災原因調査シリーズ(55)・倉庫火災
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